「エロイカより愛をこめて」などで知られる漫画家・青池保子さんの大規模な原画展「漫画家生活60周年記念 青池保子展 航跡のかがやき」が神戸市立小磯記念美術館(神戸市東灘区・六甲アイランド)で開かれている。9月24日(日)まで。
青池さんは1963年、15歳で漫画家デビュー。76年に連載を開始した「イブの息子たち」で人気に火がつき、同時期の「エロイカより愛をこめて」が大ヒット、読者層を大幅に広げた。その後もイベリア半島を統一した王を題材とした「アルカサル―王城―」(1984~2007年、第20回日本漫画家協会賞優秀賞受賞)、現在も「ミステリーボニータ」(秋田書店)で連載中の「ケルン市警オド」(2016~)など、歴史や美術を題材としたドラマチックな作品を発表し続けている。
展覧会では、美しいカラー原画とともに、これまでほとんど公開されていなかったモノクロ原画も展示。両原画計310点を全8章に分けて構成している。
展示は、デビュー作「さよならナネット」のモノクロ原画で始まる。1960年代後半のコミック誌の現物を経て、「イブの息子たち」の原画へと続く。タイトルの文字や吹き出しなどを切り貼りした当時の原稿から、制作過程が想像され、興味深い。
とりわけ目を引くのは、カラー原画だ。「エロイカより愛をこめて」の主人公、美術品泥棒のグローリア伯爵(エロイカ)、ドイツ人将校エーベルバッハ少佐ら、おなじみの麗しいキャラクターたちを鮮やかな配色で堪能できる。モノクロ原画も、テンポ良くコマ割りされたページや記憶に残る名シーンなど、ファン垂涎のラインアップ。
1990年代以降の3作「アルカサル―王城―」「修道士ファルコ」「ケルン市警オド」は、それぞれ中世ヨーロッパ地域の王、修道士、官吏が主人公で、同じ人物が別の作品に出てくる「スピンオフ」形式で展開する。画業60年を迎えてなお圧倒的な画力で描き続けている青池さんの偉業を実感する作品群。とくに「アルカサル」のカラー原画は、緻密な線、絶妙な配色、リアルな衣装の表現など、西洋画のような趣だ。
金井紀子学芸員は、青池作品について「作者自身が関心を持ち、好きなものを描いているので、登場人物が生き生きしていて、存在感がある。自ら歴史を調べ上げ、現地で取材し、リアリティーあふれる作品に仕上げている」と指摘し、「カラーの扉絵などは、作品を読んだことがない人でも、美しい絵そのものとして楽しめる。多くの人に来場してほしい」と話した。