高田さんの作品には、舟のモチーフが多く登場する。高田さんの出身地・静岡県・奥三河のあたりでは、天竜川が生活の要で、川を行き来する舟が「大切なものを運ぶ手段」であり、「すべての情報をもたらしてくれるもの」だった。粘菌の「運ぶ」という意味合いに合わせ、舟のモチーフを使っているという。
少しドキッとする作品も。イタチの骨を使った「PHYSARUMRIGIDUMとイタチ」。森の中を歩いていると亡骸に出会うこともある。「森に育まれ森に還るという出来事にはっとした。その骨の横に粘菌が移動していた」(高田さん)。イタチの骨と粘菌が食物連鎖を想像させるとして表現されている。「博物館だとイタチの骨を組み上げて展示されるのだろうが、ここはアートセンターなので美術作品」と、宝塚市立文化芸術センターの大野裕子キュレーターは話す。
展示室はまさに森の中。実際の森で見過ごしてしまうようなものも、高田さんの手によってアート作品に生まれ変わっている。高田さんは「ここを見てほしい、というのはなくて、とにかく見て何かを感じてほしい」と話す。大野キュレーターは、「展示を見て、美術に興味を持ったり、粘菌に興味を持ったり・・・何かの入口になれば。夏休みの自由研究にもおすすめです」と言う。
また、会期中は展示室で見た作品や粘菌・キノコの印象をスケッチできる
ワークショップスペースを設ける。完成したスケッチは壁面に展示し、まるで粘菌たちが増殖していくように、会場の風景も日々変化し、「生きた空間」となる。
「高田光治のミクロコスモス劇場展―粘菌と胞子がつむぐ物語―」
2023年7月29日(土)~9月3日(日)
宝塚市立文化芸術センター 2階メインギャラリー
(宝塚市武庫川町7-64)
休館日 毎週水曜日
観覧料 大人(高校生以上)1000円 中学生以下 無料