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【全3回シリーズ・後編】ヘルプマークがいらなくなる未来? ヘルプマークのこれから

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 外見からはわかりにくい状況を抱え、周りの援助や配慮を必要としている人が、助けを求めていることを知らせるための「ヘルプマーク」。利用者の中には、義足を使用している人や、重篤な内部疾患がある人もいる。

 2012年に東京都が作成してから10年余りが経ち、全国に広まりつつある。その一方で、浸透しているとは言い切れない現状も浮かび上がっている。そこでこのほど、ラジオ番組で「ヘルプマークの今とこれから」を考察。当事者や支援者や研究者の声とともに、前・中・後編の全3回シリーズで届ける。後編は「ヘルプマークがいらなくなる未来? ヘルプマークのこれから」。

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「ヘルプマークを知っている人は2割、意味までを含め理解している人は1割」。番組の取材を通して得た結果だ。日本で生まれたヘルプマークの認知度は、まだまだ発展途上というべきか……とはいえ、「広く知ってもらうことをゴールとするのはもったいない」と研究者は話す。

 ヘルプマークにはどのような未来がふさわしいのだろうか。

【研究者の視点で】
◆ヘルプマークと日本人の心理
「“ヘルプマークをどう物語るか”の有効性について研究している」のは、大阪公立大学文学研究科 社会心理学研究室の橋本博文准教授だ。橋本准教授は、ヘルプマークを初めて見た時に「日本人の心のあり方を前提に設計されている」と感じたという。

 橋本准教授の言葉を借りると、海外と日本で違いがあるのは「助け合いのハードルの高さ」だ。

 たとえば海外では、駅のホームで重い荷物を持っていると、見知らぬ人が助ける光景をよく見掛ける。これに対し日本では、「持ちましょうか」となかなか口に出せなかったり、人が困っているように見えても本当に助けを求めているのかわからず、「余計なおせっかいかな」と思う心理が働いてしまったりするというのだ。そういった特徴について、橋本准教授は「海外は助け合いのハードルが低く、日本は高いのではないか。そのハードルを下げる1つのツールがヘルプマークではないだろうか」と分析する。

大阪公立大学文学研究科 社会心理学研究室 橋本博文准教授
大阪公立大学文学研究科 社会心理学研究室 橋本博文准教授

 一方で、ヘルプマークを前面に押し出して「『目に見えない障害がある人のためのもの。そういう人は援助されるべき』という見方一本でいくのは危うい」とも指摘する。なぜなら、世間にはさまざまな声があるからだ。

 橋本准教授は「例えば、残念なことに、ヘルプマークを利用する人の中に『つけていれば座席を譲ってくれるだろう』『譲ってくれるのは当然だろう』と考える人達がいると、ヘルプマークの理解に対して、当事者からも援助する側の人達からも、やっぱりそれは違うんじゃないかという声が当然上がってくると思う」と見立てた上で、「そう考えてはいけないのではなくて、そういう声もあるんだと(承服する)。社会の中で多様な声とどう向き合っていくか。ある意味“異文化理解”だと思う」と語った。

 ヘルプマークを、みんなのためのもの、社会福祉の問題と捉えられるかどうか……。橋本准教授は「日本人は相手を傷つけない、嫌われないという意味でのやさしさは持ち合わせている。だからこそ、どこかで折り合いのついた理解ある考え方にたどり着けるのではないか」と考えている。

◆障害を取り巻く2つの考え方 ~“社会モデル”をスタンダードに~
 ヘルプマークを持つことは、自分が障害者であると世に知らせることになる。だから持ちたくないという人もいる。日本では、障害の存在を表面化することに周囲の理解や評価が追いついていないのが現状だ。

 障害には、「障害を抱えているのは個人の問題」とする『個人モデル』と、「社会の在り方がその障害を生み出している」と考える『社会モデル』の2つのモデルがあるという。橋本准教授は「“社会が生み出す障害がある”という考えが広がれば、見えない障害を抱える当事者が障害をオープンにすることへのハードルも下がっていくと思う」と分析する。

「社会全体がこのマークに理解がある状態は作れないし、そこをゴールにすべきではない。しかし、社会の見方が少しずつ変わっていくと、見えない障害がある人も(ヘルプマークを)つけることもあるのではないか。つまり、変わるべきは当事者ではなく社会の見解。おせっかいでいいから、困っているなと思ったらおせっかいを焼くというアプローチをスタンダードにしていく、これも1つのゴールかと思う。そうなると、ヘルプマークは要らなくなるのかもしれない」。

取材時の様子
取材時の様子

◆いかに自分事とするかがカギ
 もう一つ大切なのは、いかに自分事として社会に目を向けられるか。ヘルプマークを持つ人の中には、「なぜ自分が」と驚き、悩んだ人がいる。大人になり、社会に出てから発達障害と診断を受ける人もいる。いつ自分が、ヘルプマークを持つ立場にならないとも限らない。

 番組ナビゲーターの大西由梨は「障害がある人に取材するたびに、どこまで聞いていいのか考えた。でもそれは違う。当事者意識を持っていなかったと気づいた。“当事者意識を持つ”というのは、自分も障害ある立場になるかもしれないということ」と振り返る。

 橋本准教授は「ヘルプマークは“どう物語るのか”が重要。『困っている人がマークをつけました』までは理解できても、その先のアクションに至らないのは、当事者意識を持つことができないからではないか」と説明。ヘルプマークの未来に向け「このように“物語る”より『自分、あるいは自分の大切な人が身につける日が来るかもしれないマーク』というように、時間軸や空間軸を長く大きくとらえた時、ヘルプマークに対する認識がかわる。当事者としての未来に思いを馳せられるかが重要だと思う」と話して締めくくった。

【完】

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