神戸を代表する現代美術家・堀尾貞治の、没後初めての美術館での個展となる「堀尾貞治 あたりまえのこと 千点絵画」が、BBプラザ美術館(神戸市灘区)で開催されている。2023年12月24日(日)まで。
堀尾貞治(ほりお・さだはる 1939-2018)は、神戸市兵庫区に生まれ、小学校時代の美術教師との出会いや叔父・堀尾幹雄の影響で、15歳の時に一生美術をやると決心。三菱重工業神戸造船所で働きながら、創作活動を続け、年間60回以上、時には100回以上という超人的なペースで、個展やグループ展、パフォーマンスを国内外で行った。美という純粋なものを求めて制作を続ける中で、「表現を捨てることが自己の表現」という考えにたどり着き、スピードと量を重視して思考が介在する余地を排除し、呼吸をするように作品を生み出すようになった。
今回のタイトルにもなった「千点絵画」は、2016年、77歳の時に、奈良県大和郡山市の喜多ギャラリーで、延べ6日間に1000点もの絵画を描いたプロジェクト「千Go千点物語」に由来し、会場にはこのうち276点が並ぶ。「展示室にある作品全部を1日で描いていたようなイメージ」とは、BBプラザ美術館の宮本亜津子学芸員。作品は90 x 90センチの廃棄パネルを再利用したものが多い。中には元々のデザインが残っていたり、穴が開いていたり、靴の痕があったりするが、堀尾は時にはそれを作品に取り込んで、本能的に色を選んで絵の具を載せていく。また鈍器で叩いたり火で炙るなど様々な技法を使った。「パネル自体の傷みや木枠のささくれもあり、どこまでが『作品』なのか判断が難しいこともある」と言う。
また同じ日に描かれたものでも、色や勢い、絵の具の質感も違う。「6日間の変遷が分かるように作品を並べた。1日の中でもどんな順序で描いたのか、何か変化があるとしたらそこに何があったのか、考えながら見るのも楽しい」(宮本学芸員)。
堀尾は、1997年から2018年に亡くなる前日まで、1分で1枚を描くという独自のドローイング技法「一分打法」(実際には1分かからず数秒から数十秒で仕上げることも多い)を毎朝続けていた。宮本学芸員は「『千点絵画』はその長年の創作鍛錬の発展形で、ひとつの到達点と言えるのではないか」と話す。