日本一の酒どころ・灘五郷の1つ、西宮郷の一角にある白鹿記念酒造博物館(兵庫県西宮市鞍掛町・運営/辰馬本家酒造)に30日、青々とした新たな「酒林(さかばやし)」が吊るされた。
酒林は新酒の季節の訪れを知らせる。
すっきりとした辛口で芳醇な「男酒」と呼ばれる灘の酒は、西宮神社付近に湧く六甲山系の良質な伏流水「宮水」がひと役を買う。辰馬本家酒造は1662(寛文2)年創業、清酒「白鹿」ブランドで知られる。
杉玉とも呼ばれる酒林は新酒の季節の訪れを知らせる。 杉の葉を束ねて球状にまとめたもので、江戸時代に酒屋の看板として軒先に吊るされるようになった。
青々とした杉の葉が徐々に茶色になるにつれ、酒が熟成している証しとなる。
杉は酒の神様をまつる大神(おおみわ)神社(三輪明神・奈良県桜井市)のご神木。 ”神の坐す杉”とされていた。 酒林には「志るしの杉玉」と記した木札が付いている。「志るし」とは、神が霊験をあらわす示現(じげん)のことで、酒造りの神・大物主大神(おおものぬしのかみ・大国主神とも)が鎮座する山の杉をいただいたことの証(あかし)とされる。
それだけに、酒林は酒蔵、酒屋にとって神聖なもの。また、杉材は伝統的な酒づくりの道具にも多く使われ、香りが移った樽酒の風味はその恩恵といえる。
今年の酒林は、直径約95センチ、重さ約100キロと、昨年より大きめ。辰馬本家酒造では、杉の葉の採取、酒林の製作、付け替えまで全て社員の手で行う。
10月19日、兵庫県丹波市山南町で採取された杉の葉を少し乾燥させ、竹を編んで作った丸い籠に杉の葉を差し込んできれいに球体を整える。杜氏や蔵人から代々受け継がれた方法で、酒造りの合間を利用しながら約10日間かけて完成させた。
辰馬本家酒造・醸造部の阿部大輔さんは、酒林を作って今年で16年目。「コツは、葉っぱを均等に刺して、丸く見せることだが、これが一番難しい」と話す。
今年は杉の葉をあまり刈らずに、ふんわりした感じを残して、きれいな丸形に刈り上げた。
そして、「毎年、本格的な酒造りが始まるこの季節は、身の引き締まる思い。今年の初搾りの酒も、口に含めば良い出来上がり。皆様に美味しいと思っていただける酒造りを目指し、これからの1年間頑張りたい」と抱負を語った。