兵庫県加西市出身で兵庫県内を拠点に世界的に活躍する現代美術家・吉本直子の代表作から最新作までを集めた個展「吉本直子 いのちをうたう - 衣服、痕跡、その祈り」が、兵庫県立美術館ギャラリー棟1階アトリエ1で開かれている。2023年11月26日(日)まで。
兵庫県立美術館の担当学芸員が今こそ紹介したいと考える注目作家を取り上げ紹介する「チャンネル」プログラム。2023年度の第14回は吉本直子を紹介する。世界的に活躍する吉本さんだが、地元・兵庫県の美術館での個展は初めて。これまでの代表作から最新作までを紹介する。
天井までの高さが7メートルほどある展示室・アトリエ1に足を踏み入れると、目に入ってくるのは白い壁。近づくと大小様々なブロックで構成されており、その一つ一つは白い衣服が固められたものだとわかる。
吉本さんは、古い衣服、とりわけ白い衣服をポリ塩化ビニールと言う樹脂で固めて作品をつくる。古い衣服には、それを身につけていた人の汗や皮脂、そしてその人が生きた時間がとどめられており、単なる布を超えた記憶をとどめる媒体になる。白を使うのは、少し黄味がかっていたり黒ずんでいたりとそれぞれに色の違いがあり、人が着用した痕跡になるからという。
「白い棺」は、外観はブロックを積み上げた建築物のようだが、内側は、シャツの袖が伸びており、生きた人間の存在を感じさせる。
5000枚もの衣服を使い、4年もの時間をかけて作り上げたという「鼓動の庭」は、「大きな壁を見てみたい」という思いから制作を始めた。「誰もいない空間で一人この作品と向き合うと、静けさがさらに増すような感じがする。それぞれの服の向こうにその人の鼓動のようなものがあると想像すると、自分の鼓動を一番強く感じる。生きていると実感する感覚がある」と吉本さん。「ここにあるのは過去のものだけど、その人が生きていた時間を作品から感じ取ってもらえたら」と話す。