―――従来の洗面台との違いは?
【阿部さん】 最も大きな違いは、固定式だった蛇口が伸び縮みするハンドシャワーになったことと、洗髪できるように、かつ水はねしないように洗面台ボウルのサイズが大型になったことです。弊社は衛生陶器(トイレ)を製造していますので、陶器の加工技術を用いたことにより、容量が19リットルにもなる耐久性の高いボウルの製造に成功しました。
さらに、髪の長い女性が洗髪することを考慮し、髪の毛が吸い込まれないよう排水口を中心から少し横にずらすという工夫もされました。
ほかにも、ちょっとした洗濯物を洗うなど、洗髪以外の用途でも使用できるように進化してきました。当時は、赤ちゃんの体を洗う“ベビーバス”代わりにもされていたようです。
―――反響は?
【阿部さん】 女性を中心に、朝に洗髪する人が増えていきました。同時期に“朝シャン”専用のシャンプーなどが発売されたこともあり、シャンプードレッサーは朝シャンブームの火付け役となりました。「朝シャン」は1987年の流行語にも選ばれ、1988年には発売当時の約10倍以上の商品が出荷されました。
―――なぜ洗面台での洗髪の要望が多かった?
【阿部さん】 当時は女性がどんどん社会進出していたこともあり、身だしなみを整える機会が増えた時代でした。顔を洗うだけでなく、化粧やヘアセットなども洗面所1か所で済ませたい。そういう役割が求められたのだと考えられます。
☆☆☆☆☆
阿部さんによると、今では、販売されているほとんどの洗面台に伸縮式のハンドシャワーが付いているのだそう。
ほんの40年前までは、洗面所で手軽に洗髪することはできませんでした。今では当たり前になっていることが、数十年前まではそうでなかった。そんな昔の記憶をたどってみるのもいいかもしれません。
※ラジオ関西『Clip』2023年11月9日放送回より
(取材・文=濱田象太朗)