方言のなかには、古来より使われているものだけでなく比較的最近生まれた「新方言」にカテゴライズできるものがあります。新方言は古くから土地に根付いているものとは異なり、流行語や若者言葉のように廃れてしまうこともあるそうです。
そこで、今回注目した新方言は宮城県の「ジャス」。これは「ジャージ」を意味しますが、どのように生まれどういった世代に使われているのかルーツを研究している東北大学の小林隆名誉教授に話を聞きました。
教授によると、1997年に調査をはじめた段階ではすでに浸透している言葉だったといいます。
「私自身は新潟県出身なので、『ジャス』が方言だということはすぐわかります。ですが、少し前まで宮城では全国共通語だと信じている方がたくさんいました。学校の校則にも『体育の時間はジャス着用のこと』と記載されていたそうで、当時はとても驚きました」(小林隆名誉教授)
なぜジャージはジャスと呼ばれるようになったのかについては、「宮城県の新聞社『河北新報』の情報によれば、もともと関東の大学ラグビーの選手たちが、ジャージの愛称として『ジャッシー』と呼んでいたのが起源のようです。『ジャッシー』という言い方が次第に仙台の大学生にも広まり、そこから学校の運動着の意味で県下に広まったと考えられます」とのこと。
ほかに宮城方言の特徴も挙げており、「シ」が「ス」に近い音で発音されるためジャッシーがジャッスーやジャスのように変化していったのではないかと推測されるといいます。
「いつ頃から使われた言葉なのかははっきりしません。ですが、そもそもジャージ自体が新しいものなので、そう古くからでははないと思われます。1997年から2000年ごろに実施した調査では、中年層より若い世代は『ジャス』といい、それ以上の世代は言わない人が多い……という結果が。そのことからも、広まり出したのは戦後になってからだと推定されます」(小林隆名誉教授)
そんなジャスですが、小林名誉教授いわく最近は一気に衰退が進んでいるのだとか。おそらくジャスが方言であることが知られてしまったことが一因だそうです。例えば、ジャスと同じく新しい方言とされる「いきなり(非常に・たいへん)などは共通語の「いきなり(突然)」と同じ形をしているので方言とは気づかれにくく、かなり息が長いそう。それに比べ共通語ではないことが明白なジャスは、そもそも方言を積極的に使うことをしない若者達から敬遠され、廃れていく傾向にあると推測されるそうです。「宮城出身の学生に聞いても、知っているけど使わないという人が多く、知らないという人も現れています」とのこと。