駅やショッピングセンター、百貨店など日常のさまざまなシーンで利用するエスカレーター。みなさんはエスカレーターで、ステップよりも手すりベルトが少し速く進んでいると感じたことはありませんか。実は、速度の違いにはきちんと理由があるのです。一般社団法人日本エレベーター協会に取材しました。
日本エレベーター協会によると、エスカレーターは、国内法規(建築基準法令)により、同一速度で連動するよう規定されているものの、完全に同一速度にすることは難しく、経年によっても速度差が生じるようです。手すりベルトがステップから大きく遅れると、利用者が後傾姿勢となり危険なため、あらかじめ納入時に、多少手すりベルトがステップよりも早くなるよう設定するのが一般的とのことです。
手すりベルトに遅れが生じる理由には、ステップと手すりベルトの構造上の違いがあります。
【ステップ】モーターからギア、スプロケット(歯車)、チェーンを介して動力が伝達されるため、原則として速度を正確に伝えることができます。
【手すりベルト】モーターからギア、スプロケット、チェーンを介して、最後はローラーの摩擦力で手すりベルトを動かすため多少の遅れが発生します。また、ローラーは経年により少しずつ摩耗していくため、経年により遅れ量は少しずつ大きくなります。
したがって、ステップと手すりベルトを完全に同一速度にし続けることはできないとのことでした。
また、「なぜ、施設ごとにエスカレーターの速度が異なるのか」についても取材しました。日本エレベーター協会によると、エスカレーターの速度は基本的に、各事業者から当該施設で想定される利用者数・時間帯等を勘案して要求された速度で設計するといいます。通常は、分速20から45メートルまでの5メートル刻みで設定されており、分速30メートルで運行しているエスカレーターがほとんどとのことです。通勤で利用されることが多い鉄道駅では、常時または時間帯などにより速度を上げ、輸送力を増加させる傾向があるといいます。逆に急ぐ人が少ない商業施設では、常時または時間帯などにより安全に考慮し速度を落として運行する傾向が見られるそうです。
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普段何気なく利用するエスカレーターですが、手すりベルトの速さは、各エスカレーターの設置場所での使用状況に応じて設定されていることがわかりました。私たちは、目に見えないさまざまな工夫により安全に、快適に生活することができているのかもしれませんね。
(取材・文=坂本有伽)