神戸の精神科病院に入院中だった女性(兵庫県明石市・当時47歳)が死亡したのは、違法な身体拘束が原因だったとして、遺族が14日、この精神科病院の運営法人を相手に約9200万円の損害賠償を求め、神戸地裁に提訴した。
訴状などによると、女性は1992(平成4)年に統合失調症を発症し、「関西青少年サナトリューム」(同市西区)への入院・通院歴があった。2021年3月29日、女性は持病の悪化から発作を起こした。その翌日にこの病院で受診後、医療保護が必要と判断されて入院した。
病院の診療記録には、女性が入院した日の夜、大声をあげなから廊下を走り回るなどの興奮、多動の症状があったため、隔離処置したとされている。
遺族は病院に対し、病院内のカメラの映像を開示するよう求めたが、当初は拒否していた。その後、隔離措置する際の映像を15秒程度開示したが、女性が歩いている姿を少し確認できる程度だったものの、足取りもしっかりしており、拘束が必要な状況だったのか疑問が残るという。
しかし、病院側は「多動、または不穏が顕著な状態」と判断し、女性は入院2日目から7日間、両手足と胴の5か所を拘束(5点拘束)された。
遺族の代理人弁護士によると、女性が入院した際、家族に向けて身体拘束の可能性がある旨の説明はあったが、実際に拘束するに当たり、同意書への署名は促されていないという。
その後、同年4月8日に女性は容体が急変して心停止状態となり、別の医療施設に救急搬送され、肺塞栓症で死亡した。
遺族は、「なぜ、亡くならねばならないのか、(女性は)同居する80代の父親の身の回りの世話をするなど日常の生活は問題なく送れていたが、7日間も身体拘束されるまでの状況ではなかった。理解できない」と話した。
厚生労働省は精神保健福祉法に基づき、医療施設内の患者の身体拘束について、それ以外に良い代替措置がない場合の”やむを得ない措置”としている。
その適用条件として、生命保護の必要性や重大な身体損傷が認められる「顕著な多動または不穏な状況」などを挙げている。
遺族側は「(女性の)看護記録を見る限りでは、生命保護の必要や重大な身体損傷の恐れが認められるような状況になかった」と訴える。
そして、「隔離されていた状態から身体拘束に至る根拠も見い出せず、7日間も継続する必要はなかった。病院としてが身体拘束が必要だと判断したとしても、女性は糖尿病に罹患(りかん)しており、肺塞栓症を発症する危険性が高かったにもかかわらず、血栓予防のための措置や検査を怠った」としている。
代理人弁護士は「治療や検査目的であっても、身体拘束を安易に行うべきではない。病院側は(身体拘束以外に)早期に他の方法に切り替えるよう努めなければならなかった」と主張する。
女性の実妹は、「明るく元気な姉だった。残された父の気持ちを考えると本当に辛い」と涙ながらに話した。