保安課・中村結衣巡査部長(31)は、震災から1か月後の被災者に接し、「この先の不安や、行き場のない怒りやいら立ち、焦りがあった。そうしたストレスを発散してもらうために、傾聴(相手を否定せず、話に耳を傾ける)することに徹した」と話す。
そして、「震災前の、電気、ガス、水道がある生活がありがたいと感じる。確かに不便な生活だが、今ここに生きていることに幸せを感じたい」との言葉に、強さの反面、将来の生活をどうするのかという危惧を垣間見たという。
高齢者とともにリフレッシュ体操をするシーンが増えた。人身安全課・山本陽子巡査(44)は「避難所生活をしていると、どうしても心が沈みがちになる。屋外で散歩したいと思っても、気が引ける。このままでは言いたいことも言えず、ふさぎがちになってしまうのではないか」と感じた。「出しにくい第一声をどう出すのか、声を出せば気持ちも前向きになれる」。短い時間であっても、軽くストレッチをすることで、心も身体もほぐれ、笑みを取り戻していく高齢者の姿を見た。
被災地の状況は刻々と変わる。生活経済課・漆原(うるしはら)裕貴巡査部長(30)は、「命があって良かった、という段階から前向きに生きようという気持ちになる、それと同時に現実が見えると、生活の再建や街の復興への高いハードルが押し寄せてくる。それが不安につながっているようだ」と思った。しかし、警察官の立場でどうアプローチして、どういう言葉をかけていいのかわからなくなったという。
「仮設住宅はいつできるのか、どうやったらそこに入れるのか、という被災者の切実な思いを、10日という派遣期間が決められた私たちが寄り添えるのか、同じ時間を共有すればするほど、無責任な言葉を発することができない難しさを感じた」と振り返る。
子どもたちと接した生活安全特別捜査隊・高島由菜巡査(23)は、「余震のたびに顔をこわばらせる子どもたちを見ると、心苦しくなった。一緒に歌を歌うと、すぐ近くにいる母親も笑顔になる。マニュアルや規定があるわけではないので、現場でとっさに思いついたのが良かったのかも知れない。私は阪神・淡路大震災を経験していない世代。単に『頑張ってください』と声をかけても、相手の心に響くのか自信がなかった。そうした中、90代の女性から『若い方が来てくださって嬉しい』と涙ながらに話してくれたのが救いだった」と振り返った。