【橋本】 海外から一気に新しい文化や思想が流れ込んできたという感じですね! そしてその象徴が長髪だったと。
【中将】 はい、個人的に大きな変化だと思うのは、これによって若者の間に「男女平等」の感覚が芽生えたことです。次に紹介するのは、そんな新時代の風潮を代表する1曲。吉田拓郎さんで『結婚しようよ』(1972)。「僕の髪が肩までのびて 君と同じになったら (中略) 結婚しようよ」というフレーズが、当時では大きなインパクトがあったようです。
【橋本】 個人的には「今すぐ結婚してや!」と思っちゃいますが(笑)。この曲は当時、どのように受け止められたのでしょうか?
【中将】 男性が長髪にするばかりでなく、それを結婚のタイミングにもってくるというのが新しかったんだと思います。男や女という封建的な感覚にとらわれない拓郎さんのセンスが支持されたんですね。
でもちょっと脱線しますが、当時の若者……今80歳前後の人たちの間で芽生えた男女平等の意識がどれだけ真に平等だったかは疑問の残るところです。1970年代以降も少しマシになったとはいえ、セクハラやパワハラって残っているわけですし。
【橋本】 当時の若者が感じた「平等」と現代の「平等」では大きな違いがあるのかもしれませんね。
【中将】 始まった変化が本当の意味で普及するまでには長い年月がかかるということですね。
さて、次に紹介する曲が、番組内での最後のロン毛ソングになります。バンバンで『いちご白書をもう一度』(1975)。これもフォークの流れにある曲ですが、「就職が決まって髪を切ってきた時」というフレーズが当時の若者の敗北感、挫折感を物語っていますね。
【橋本】 髪を切ることが青春の終わりのようで、なんだか切ないですね……。
【中将】 ヒッピーや学生運動も過去のものになり、現実社会に直面した若者の心境がよく描かれていますよね。その後、1980年代になると男性の長髪は「時代遅れ」のファッションになり、一時廃れます。ですがその後、ファッションの多様化により今ではごく一般的なものになっていますね。
【橋本】 そうですね。でも、もしかすると今、放送を聞いている人たちの中にも就職で髪を切ったり黒染めしたばかりの人がいるかもしれません。日本の社会も、もう少しそういった部分に寛容になってほしいですよね。