5月に入っても花粉や黄砂、寒暖差により鼻水や鼻詰まりに悩まされる毎日。筆者にとって欠かせず重宝しているのが肌に優しい「保湿ティッシュ」です。しっとりとしていて、鼻をかんでもヒリヒリしないのが魅力のアイテムです。しかし不思議なのがパッケージ外に放置していてもしっとりしていたり、口に触れると少し甘さを感じたりすることです。保湿ティッシュはどのような仕組みになっているのでしょうか。高知県に本社を構える河野製紙に話を聞きました。
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河野製紙は世界で初めて保湿ティッシュの開発に成功し、1993年に販売を開始し特許も取得しています。そもそもどのように保湿ティッシュは誕生したのでしょうか。同社によると「現会長である河野矩久自身が鼻炎であり、『肌の弱い方や頻繁に鼻をかむ方に安心して使って頂ける柔らかい紙はないか』と研究員に相談したことが始まり」とのこと。
そんな同社ですが、現在は各メーカーから同様の商品が多数販売されており知名度で劣る印象を受けます。こうした現状についてどう思っているのでしょうか。
「保湿ティッシュの市場の伸びが当社の予想を超えていました。当社のみでは市場をまかないきれず、他社が追随したことにより市場が拡大し、アイテム自体の認知度も上がりました。その点で良いことだと思っています」(河野製紙)
ライバルメーカーの多発を悔しがるどころか感謝しているように述べる同社。ですが、長年培った技術を駆使し更に吸水性と柔らかさを追求した「形状記憶エンボス」という新たな素材を2010年に発明し、特許を取得したそうです。
さて、保湿ティッシュの最大の特徴は肌に触れた時のしっとり感と柔らかさ。どのように生み出したのか聞きました。
「ふんわりさせるにはどうしたらいいのか……矩久氏に相談を受けた当時の研究員達は、素材に柔軟剤を混ぜてみるなど試行錯誤しました。その結果、たどり着いた答えは『水分を含ませること』でした。そうすることで柔らかな感触になるということを発見したのです。とはいえ、単に濡らすだけでは乾いてしまいます。そこで考えついたのが、グリセリンとソルビットという“保湿剤”を用いることでした」(河野製紙)
グリセリンとソルビットは空気中の水分を適度に吸い付ける性質を持ちます。いずれも化粧品などに使用されることもある成分で、ティッシュに含ませることで空気中の水分を吸湿し、しっとりとした潤いと柔らかさを実現したそうです。
保湿ティッシュが口に触れた時に甘く感じる理由については、ソルビット自体が甘みを持つことにあると同社は説明。ソルビットは保湿目的だけでなく甘味料としても食品に用いられることもあるそうですが、ティッシュを口に含むのは厳禁だそう。ではなぜソルビットは必要なのでしょうか。
「グリセリンは大気中の水分を吸湿する力は強いですが、乾燥状態になると水分を離しやすい性質を持っています。反対にソルビットはグリセリンと比べて吸湿する力は弱いですが、乾燥状態になっても一旦吸湿した水分を離しにくい性質があります。そのため、環境が変化しても安定して水分を保持しやすくするために両方の成分を配合するのがベストだったのです」(河野製紙)
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同社のみならず各メーカーの並々ならぬ努力によって、「鼻炎持ち」の面々は快適に鼻をかむことが出来ているのかもしれません。
(取材・文:宮田智也)