梅元さんは飼育員の宿命として「生き死には避けられない道」と話す。「そんな自分に、少し慣れてしまっていた自分がいた。しかし、病に苦しんだタンタンとの最後の3年間、Xでのツイートの反応を見るに、みなさんに大きな力を与えた存在だったことに気付いた。生きる力ってすごいんだな」と教えられた。
・・・・・・・・・・・・
追悼セレモニーの会場に、車いすに乗り、母親に付き添われた10歳の少年の姿があった。小学5年のまもるさんには心臓疾患がある。日常のコミュニケーションが難しく、セレモニーの序盤はじっと目をつぶっていたが、梅元さんと吉田さんの弔辞を聞き、声をあげて何かを訴えかけていた。
まもるさんが初めて王子動物園でタンタンに出会ったのは1歳の時。5歳の時に訪れたのが最後だったという。新型コロナウイルス感染拡大の影響で入場が予約制となり、タンタンの病気が発覚し、会えぬままだった。タンタンも心臓の病気と闘っている。まもるさんも病気に打ち勝ちたいと懸命に生きている。
学校行事の演劇ではパンダ役になり、七夕の短冊には「タンタンに会いたい」と綴った。自分の姿とタンタンの姿が重なるのだろう。
「いつか会える」と信じていたが、叶わなかった。
「中国への帰国の話を聞いて、どうなるのかと思っていました。中国へ帰ればタンタンもきょうだいに会えると聞いていました。タンタンのためには最善だったかも知れない。コロナ禍で延期になり、神戸に.いてくれて、会える望みをつないでくれた」と母親は話す。
まもるくんから、「あー、あー」という声があがる。「タンタン、天国に行っちゃったけど、最後に“ありがとう”って言えたね」との母親の問いかけに、まもるくんはうなづいているように見えた。
動物たちは、癒しだけではなく「生きる力」を与えてくれる。
「阪神・淡路大震災以降、神戸の人々に微笑みと勇気を与え続けたと思うんですよ。タンタンの代わりはいないと思います」と会場を後にした。
・・・・・・・・・・・・
2000年に飼育員になった梅元さん、もうベテランの域に入る。「このうちタンタンと16年。心の中にポッカリ穴が空く一方、これからもいろんな動物との出会いがある」と前を向く。「毎日毎日、ドラマが待っていると思う。伝えることって、すごく大事」と改めて感じさせられるという。
「今、目をつぶるとね、タケノコを食べているタンタンの姿が思い浮かぶんです。一番好きなタンタンの表情だったから」。“神戸のお嬢さま”は、天国で見守ってくれている。そして、まもるくんと母親の心の中にも生き続けている。
◆この記事の内容はラジオ関西ポッドキャスト【ニュースの景色】からもお聴きいただけます。
【ニュースの景色】はこちらをクリック ♯28 「さよなら、タンタン」10歳の少年の心の支えに そして飼育員との最後の時間は…
【神戸市立王子動物園 公式サイト】