兵庫県新温泉町の「くぐり池」。6月の中頃にかけて、ショウブやカキツバタなどの花が美しく咲く約90坪ほどの大きさの池で、普段は周りに生える草に覆われ、その姿はほとんど見えませんが、ここには多くの伝説が残っています。
なかでも、特に不思議な話がこちら。
・池の周りで家族が昼食をすませ、洗いものを池に浸けておき、田植えを済ませて、洗いものを探したが見つからなかった。後日、その洗いものが多鯰ヶ池に浮いていた。
・地区の若者たちが池の中央に相撲場をつくったが翌朝見ると一夜にして消滅していた。
・池に洗いに行った牛がおぼれて姿を消し、多鯰ヶ池に骨だけ浮かんできた。
紹介したのは「くぐり池」に残る一部の伝説ですが、いずれも共通して「くぐり池」にあるモノや動物が行方不明になっています。そして、そのほとんどが約30km離れた鳥取県の「多鯰ケ池(たねがいけ)」で見つかっていて、「くぐり池」と「多鯰ケ池」はつながっているという言い伝えが残されています。
伝説について、詳しい話を新温泉町教育委員会の担当者に聞きました。
「地元では有名な伝説です。新温泉町は、山側は山陰道を、海側は海岸沿いの浜街道や海上交通を通じて鳥取県との人の往来が盛んな場所であり、近畿地方でありながら鳥取県をはじめ、中国地方の文化的影響を強く受けた場所です。村の共有地として、くぐり池に物を置きっぱなしにしないなどの公共の場のマナーとして、多鯰ケ池と結びつけてこんな伝説が残ったのかもしれません。地元の小学校では、自分たちの住んでいる地区のことについて調べるふるさと学習があり、この伝説を学びます」(担当者)
子どもたちにとっては故郷の歴史を学ぶきっかけとして印象深い話になったかもしれませんね。ただ、新温泉町に伝わる伝説はこれだけではありません。
「新温泉町は、かつての集落が現在も行政区分として引き継がれるなど、昔から現在まで人々の暮らしが連続して続いているまちでもあります。このため伝説や民話は数多く残されています。例えばキツネやタヌキ、カワウソやサルなど動物たちに関連のある話や、お地蔵様が登場する話。神社やお寺、お堂に関する伝承や由来なども残っており、地域の人たちが地元の動物や歴史を大切にし続けるため多くの伝説を残したと思われます」(担当者)
自然豊かで動物と共存し、地区ごとの歴史が残る新温泉町。伝説からも多くのことを学ぶことができます。皆さんも地元の不思議な言い伝え聞いたことありませんか? 少し調べてみると、ふるさとの歴史など思わぬ発見につながるかもしれませんよ。
※ラジオ関西『Clip』2024年5月22日放送回「トコトン兵庫!」より