金物のまち・兵庫県三木市の伝統工芸とサブカルチャーがコラボした包丁がいま、注目されています。
この包丁はレースやフリルをふんだんにあしらったロリータファッションがテーマで、なんと刃がチョウの形に! これは明治時代から歴史のある刃物製作所の職人が生み出したもの。「伝統と歴史を受け継いだ本物の技術に触れる機会にしてほしい」という鍛冶職人に、このたび話を聞きました。
「ロリータ包丁」を製造しているのは兵庫県・三木市にある田中一之刃物製作所です。明治時代末期、日露戦争の時代に鎌の製造から始め、そこから刃物作り一筋に向き合ってきました。今は4代目の田中誠貴(たなか・しげき)さんが、『誠貴作(しげきさく)』ブランドを中心とした数々の作品を世に生み出しています。
「一丁一丁手作りのため、すべて表情は違います。切れ味ひとつ、手に持った時のフィット感ひとつ、お客さんに感動してもらえるように丹精込めて作っています」と、田中さん。
伝統を受け継いだ高い技術力で国内のみならず、海外からも注文が相次いでいるといいます。
ただし、田中さんは、日本の鍛造される包丁の将来について危機感を抱いています。
「世界的に日本の包丁が注目されているといっても、興味のない人にとっては『包丁は包丁』。職人が必ずしも手作りしている必要はなく、むしろ手頃な価格で手に入る大量生産の包丁の方がいいと言う人もいるでしょう」(田中さん)
先人たちの知識や技術を大切に受け継いできた田中さんにとって、この状況は由々しきこと。どうすれば職人の作る包丁に興味を持ってもえるか。包丁を作り始めたときから常に考えてきました。
「包丁は無駄なものどんどん省いて今の形になっています。なので、あえて無駄なものをつけてインパクトを出そうと思いました。知り合いにデザイナーの方がいたので『ハートなんかつけたらどうなるかな』と相談したところ、『イイね!』と話が弾みました。ですが、デザインの仕上がりを見たらゴスロリになっていました(笑)、デザイナーのセンスです。しかし、こんな包丁はこの世にないと、思い切って商品化しました」(田中さん)
それでできあがったのが、うさぎの持ち手が特徴の「Lappin」(ラピン)と、ゴスロリ調の「JULIETTE」(ジュリエット)の2種類。
これらの商品化には反対の声もあったと言いますが、斬新な発想が話題を呼びます。
今では「少しでも地元のPRになれば」と三木市のふるさと納税の返礼品として出品。なんと寄付額は52万8千円! それでも、すでに3丁、寄付されているとのことです。
「『ロリータ包丁」に多くの人が関心を持ってくれてうれしいです。少しでも職人の作る包丁の技やこだわりが知られることにつながれば」と話す田中さん。金物の町で伝統を残すため、今日も鉄をたたく鍛冶職人の手から、次はどんな包丁が生まれるのでしょうか。期待せずにはいられません!
※ラジオ関西『Clip』2024年6月5日放送回「トコトン兵庫!」より