【橋本】 歌って踊れる系の元祖なんですね。いかにもアイドル的な歌い方と言い、やっぱり影響は大きいですよね。
【中将】 次にご紹介するのは、より音楽的な部分に特化したボーカルグループです。ザ・キング・トーンズで『グッド・ナイト・ベイビー』(1968)。
【橋本】 ゴスペラーズ的なスタイルなんですね!
【中将】 はい、ドゥーワップスタイルのR&Bですね。キング・トーンズは1958年にリードテナーの内田正人さんを中心に結成されたグループで、当時の人気歌手たちのバックコーラスも多数担当しました。はじめ、レコードデビューには消極的だったそうですが、1968年に周囲の勧めでデビュー曲としてリリースしたのがこの曲。オリコンウイークリーランキング2位を記録してアメリカでもレコードが発売され、1969年のNHK紅白歌合戦に出場しました。このスタイルは後のラッツ&スターやチェッカーズにも影響を与えていますね。
【橋本】 デビュー曲でこの安定感というのは、そんな背景があったんですね。
【中将】 はい、言うまでもなくすごいお上手です。最近の男性ボーカルグループってあまりハモったりせずユニゾンばかりの曲が多いから、音楽性的にはもっと頑張ってほしいなと思いますよね。
お次にご紹介するのはロス・インディオスで『コモエスタ赤坂』(1968)。ロス・インディオスは今ではムード歌謡グループの代表格として知られていますが、そもそもは1962年に棚橋静雄さん、チコ本間さんを中心に結成されたラテングループ。後に女性ボーカルにシルヴィアさんを迎えて歌ったデュエット曲『別れても好きな人』(1979)も有名ですね。
【橋本】 ムード歌謡って、「これがムード歌謡」っていうような定義はあるんですか?
【中将】 ありません。ラテン、ジャズ、ハワイアンなど1950年代~1960年代に流行したダンスミュージックを取り入れていて、都会的な夜っぽい歌詞の音楽が漠然と「ムード歌謡」と呼ばれたわけですね。そういう雰囲気モノという点ではシティポップと同じですよね。純烈さんもムード歌謡を名乗っていますが、その源流にはこのロス・インディオスや和田弘とマヒナスターズがいるわけです。
【橋本】 なるほどです。純烈さんのおかげで若い人にも「こういうのがムード歌謡」というのは伝えやすいですよね。古さは感じるけど、やりようによったら現代でも十分通用しそうです。
【中将】 韓国ではトロットと呼ばれる歌謡曲的なちょっと懐かしいポップスが今でも大きな支持を集めています。日本は一時、歌謡曲や演歌をダサいものとして切り捨てちゃったけど、最近ようやくその魅力が再評価されてきましたよね。
さていよいよ最後の曲ですが、次にご紹介するグループが、もっとも現代のボーカルグループシーンと親和性があるかもしれません。一世風靡セピアで『前略、道の上より』(1984)。
【橋本】 これまた一風変わった曲ですよね……「ソイヤ! ソイヤ!」と叫ぶだけの部分が多くて。
【中将】 これが柳葉敏郎さんや哀川翔さんがいたことで知られる「一世風靡セピア」のデビュー曲です。母体は日曜日に原宿のホコテンや渋谷公園通りの路上で歌ったり踊ったりしていた劇男一世風靡というパフォーマンスグループで、ルーツになる劇男零心会には風見しんごさん、野々村真さん、羽賀研二さんらも所属していました。