展覧会は5章立てで、計約150点を展示。第1章は薄茶用の抹茶を入れる薄茶器を特集、冒頭は、螺鈿(らでん[貝殻を文様に切り取って、器物にはめこんだり、はりつけたりする技法])や描割(かきわり[蒔絵をする際、線を表す箇所の地塗り部分を塗り残して金粉を蒔く技法])などのテクニックを駆使した、きらびやかな作品がずらりと並ぶ。
注目すべきは、合口部分に五線譜と音符を金の蒔絵で施した「黒地歌劇雛祭楽譜蒔絵棗 逸翁好(くろじかげきひなまつりがくふまきえなつめ いつおうごのみ)」(1933年)。楽譜は、小林一三が制作した宝塚歌劇「雛祭」劇中歌の「色づくし」の一節で、同歌劇20周年を記念した茶会で逸翁が用いたものの、客は薄茶器に込められた意図を読み取れず、逸翁が残念がったというエピソードが残る。逸翁が三砂に制作を依頼した際の手描き図面やその返信も現存しているという。
逸翁と三砂の興味深いやり取りは、第2章「香合」からも見て取れる。小林はある時、外遊時に購入したものの、その後破損した扇子の親骨を三砂に渡し、「これを何とかしてほしい」と難しいオーダーをした。三砂は悩んだ末、親骨を補修して香合の蓋とし、扇の形に合わせて作った身の部分に精妙な蒔絵を施した(「スペイン扇子山水文蒔絵香合(スペインせんすさんすいもんまきえこうごう)」1951年)。逸翁はその素晴らしい出来栄えに驚き、喜んだという。
そのほか各種茶道具や菓子器、盆や硯箱などの優品、文台や銘々皿など良哉が愛用した品々も公開。
宮井学芸員は「作品を一堂に見てもらうことで、逸翁と武者小路千家の好みの違いを実感してもらえると思う。茶道について詳しくない人も、美しい工芸として作品を楽しんでほしい。多くの人に三砂良哉という漆工がいたことを知ってもらえたら」と話している。
◆特別展「漆芸礼讃―漆工・三砂良哉―」
会場:逸翁美術館 〒563-00058 大阪府池田市栄本町12-27
会期:2024年9月21日(土)~11月24日(日)
休館日:10月14日と11月4日以外の月曜と10月15日、11月5日
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
観覧料:一般1000円、高大生800円、中学生以下無料
問い合わせ:同美術館、電話072-751-3865