鉄鋼大手・神戸製鋼所(本社・神戸市中央区)が敷地内で増設した石炭火力発電所2基について、大気汚染や地球温暖化の恐れがあるとして周辺住民が稼働差し止めなどを求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は24日、一審に続き請求を退けた。
原告は34人。原告が稼働中止を求めている2基は、神戸製鋼所・神戸発電所3号機(2022年2月運転開始)と4号機(2023年2月運転開始)。出力は計130万キロワットで関西電力に電気を供給している。

2023年3月20日の神戸地裁判決は、一般論として石炭火力発電所が排出するCO2が、気候変動に悪影響を与えるなどの危険性は認めたものの、「実際に生命、身体、健康を害されるほどの被害に遭うか否かは、様々な不確定要素に左右され、被害を回避するために国内外で地球温暖化対策が進められている」と指摘、住民の生命、身体に具体的な危険は認められないとした。控訴審判決はこれを踏まえ、原告に生じる恐れのある被害と今回の発電所との因果関係は極めて希薄だとした。
原告弁護団は、日本で排出されている二酸化炭素の約4割が火力発電所から出され、特に石炭火力は天然ガスの2倍ものCO2を排出すると指摘。神戸製鋼の2基で石炭を燃焼して排出されるCO2(二酸化炭素)については、年間約692万トンと算出。明らかにCO2の巨大排出源であり、神戸市灘区の住宅地から約400メートルしか離れておらず、窒素酸化物などの環境汚染物質の放出量も増え、温暖化を通じた被害や、その他健康被害により平穏に生活する権利が侵害されると主張し、稼働差し止めを求めていた。
さらに、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える目標が国際合意になっていると主張。気温上昇を抑えた環境で暮らす権利を「気候変動における人格権」と掲げたが、大阪高裁は、CO2の大量排出は権利侵害としながらも、2基の発電所の稼働差し止めの根拠とするには、合理的な指標になりえないとした。


弁護団は、「従来の司法判断の枠を出ず、変われない日本の象徴のような判決で残念だ。健康が害される危険が切迫している」と非難する一方、「世界で気候変動に関する意識が高まる中、本格的に司法にぶつけ、社会に訴えかけた意義は大きい」と述べた。上告するかどうかを協議する。
神戸製鋼所は判決を受け、「(住民らが)上告した場合には、引き続き適切に対応する」とコメントした。





