高校野球史に刻まれる名場面「奇跡のバックホーム」と称される試合に出場した松山商業高校の元球児・矢野勝嗣さんと元監督・澤田勝彦さんが、このたび、ラジオ番組に出演。当時の心境やその背景にあった思いを語りました。
伝説のプレーが生まれたのは、1996年8月、第78回全国高校野球選手権大会でのできごとです。初回に3点を先制した松山商業に対し、熊本工業が反撃。3対2のまま迎えた9回ツーアウト、土壇場で熊本工業の沢村選手が同点ホームランを放ち、試合は振り出しに戻ります。
この場面について、澤田さんは「不思議と落ち着いていた」と振り返ります。
「たとえ9回の裏に同点に追いつかれたとしても、10回、11回、12回と、この雰囲気のなかで野球やりたいなと。勝ち負け云々というよりも、『この場に立たせていただいていること自体が感謝だな』という思いが湧いてきて、選手たちにも伝えました」と回顧しました。
延長戦に突入し、迎えた決定的な場面。外野を襲った大飛球に、誰もが「これで熊本工業の初優勝か」と思った瞬間、直前に守備固めで入っていた矢野さんがキャッチし、すかさずホームへ送球。そのボールは美しい放物線を描き、ダイレクトでキャッチャーのミットに収まり、突入してきたランナーをアウトに仕留めました。
この伝説の送球について、「あの距離でまさかアウトにできるとは思っていなかったので、未だに“奇跡”という言葉で表現しています」と、澤田さん。
ただし、「それを実際に投じることができたというのは、やはり矢野自身の練習の賜物」「“練習は嘘をつかない”という言葉を実証してくれた」という言葉とともに、矢野さんを称賛しました。
そのうえで、「彼自身がそれまでに培ってきた悔しさだとか、日々の練習に対する向き合い方、乗り越えてきたものがあの一投に含まれていたんじゃないかなと思っています。なので、“起こるべくして起きた奇跡”だったと思っています」と力を込めました。
その後、打線が爆発し松山商業は3点を追加、6対3で劇的な勝利を収めました。
試合終盤、ツーベースを放った矢野選手が塁上で大きなジェスチャーとガッツポーズを見せたシーンを思い返した澤田さんは、このように述べました。
「性格的に生真面目というか、本番で力が発揮できないという彼に対するジレンマがあり、『自分を表してほしい』『殻にこもらずに自分を発散してほしい』と思っていた。ですから、送球した姿を見たとき、『お前に望んでいたのはこれなんだよ』と思いながら、目頭がうるっとした記憶があります」(澤田さん)
澤田さんの思いを聞いた矢野さんは、「苦労したやつを最後まで見捨てずに見てくれていたということがうれしいですし、こうやってまじまじと聞くと……。ほんとにちょっと……ダメだな……すみません」と、涙ながらに胸の内を明かしました。


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