学生時代、当たり前のように授業で使っていた『国語便覧』。現代文・古文漢文など、国語の学習に必要な情報が詰まったアイテムですが、幼き頃の筆者にとっては“分厚くて重たい”というイメージしかありませんでした。しかしながら、この国語便覧が売り切れるほどの人気を博しているといいます。一体なぜでしょうか。同書を出版する第一学習社の編集部国語課・梅原誠さんに話を聞きました。

☆☆☆☆
梅原さんによると、人気に火がついたきっかけはSNSだといいます。
「当社が運営するWeb メディア『コラムラボ』で公開している『【編集は語る】第一学習社 国語課のディープな座談会『国語便覧』~前編~』という記事が、Xでバズったことが始まりです。この記事では、国語便覧の特集で『文豪とアルケミスト』『文豪ストレイドッグス』が取り上げられていることを紹介しています。その上で、サブカルチャーへの理解に便覧が役に立つという切り口で、『FGO』『刀剣乱舞』といったジャンルにも言及しました。この点がマスター・審神者・特務司書の界隈に刺さったのではないかと考えています」(梅原さん)
始まりは“ソーシャルゲーム界隈”からの注目。購入者は圧倒的に女性ファンが多かったといいます。話題になるにつれて次第に男性ファンも増えたそうで、「一般的な学び直しなどの需要層にも波及したことが考えられます」と梅原さんは分析。
そもそも学校採用品として、全国の高等学校に販売していた同書。オンラインショップでの個別販売は行っていませんでした。それが、一時完売になるほどの売れ行きを見せることとなります。

「SNS で購入希望の声を受け、今年3月末からオンラインショップでの販売を開始しました。1冊ずつの個別配送になるので1回の販売時に用意できる冊数に限界があり、初回販売開始時は7~8時間くらいで完売。以降、再販のたびに完売するペースが早くなっていきました」(梅原さん)
転機となったのは4月21日の再販時。通常の10倍の在庫を準備して臨んだものの、アクセスが集中し一時はサーバーダウンしたそうです。そんな状況だったにも関わらず、4時間弱で完売してしまったのだとか。
5月9日の7次販売ではアクセス集中を避けるため“抽選制”を導入したものの、予想を上回る事態に。
「用意した数の10倍以上の応募がありました。在庫に限りが見えておりまたもや増刷しましたが、自社オンラインショップでは個別配送対応の限界を迎えていました。そこで、参考書や問題集に特化した通販サイトにも出品。希望者全員が購入できるようにしたところ多くの注文をいただき、先日2度目の増刷を決定したところです」(梅原さん)
「当初は需要があるのでオンラインショップで出して反応をみたい」という軽い気持ちから始めた一般販売でしたが、想定以上の反響に恐ろしさすら感じたという梅原さん。最後に次のように話しました。
「多くの教材は一生涯にわたって教養としても使える“情報のかたまり”。限られた紙面で伝えるよう工夫と努力を長年にわたり積み重ねてきました。弊社のようなケースをきっかけに、教材全体の価値の再発見・再認識につながっていくと嬉しいです」(梅原さん)
☆☆☆☆
余談ですが、『国語便覧』のあまりの売れ行きに忙殺される日々の梅原さん。「今では恐怖を感じるいとまもない」と笑っていました。
(取材・文=迫田ヒロミ)
※ラジオ関西『Clip』2025年6月24日放送回より




