生まれも育ちも神戸市中央区でサブカル郷土史家の佐々木孝昌(神戸史談会、神戸史学会・会員)が、北区出身で落語家の桂天吾と、神戸のあれこれについてポッドキャストで語る『神戸放談』(ラジオ関西Podcast)連載シリーズ。今回のテーマは「市場・スーパー」です。
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かつて神戸は“市場どころ“と言われた。神戸市小売市場連合会によると、昭和のピーク時は110を超える小売市場があったが、現在は15か所。同連合会加盟であってもジョイエールのようなスーパーに形を変えている所もあるので、昔ながらの「市場形式」となるとさらに少なくなる。垂水区・北区・西区には、もう市場は無い。
わが家の近所でも少し足を延ばす場所も含めれば6か所あった市場も、今では2カ所しかない(市場組織としては解散しても、跡地で数店舗営業している所はあるが)。とくに阪神・淡路大震災以降、商店街も含めて減ってしまった。市場や商店街の減少は神戸に限ったことではないが、市場どころとしては寂しい限りである。
北区出身の落語家・桂天吾君は、「近所に市場は無かったですね。買い物と言えば、関西スーパーか食彩館ですね」とのこと。食彩館とは、さすが神鉄沿線。神戸発祥、神鉄のご当地スーパーである。僕も、神鉄ビル地下の新開地店にはよく行った。
僕にとってのスーパーは、やはりダイエーである。スーパーとしてチェーン展開を始めたのが三宮店で神戸発といえる。ちなみに兵庫区東出町には「サカエ薬局跡地(ダイエー発祥の地)」の碑が建っている。
僕の場合は、今でも健在の湊川店が幼少の頃から愛用するスーパーだ。昔は、おもちゃ屋や食器店、写真店など色々な店舗も入っていたが、今はだいぶん様変わりしてしまった。当時からあるのは、ラーメンの回でも紹介した大衆中華の「東華園」と、神戸市内で唯一の「ドムドムハンバーガー」ぐらいか。特に、神戸で「ドムドム」が食べられるのはここだけなのでレアである。

そんなダイエーがある、俗にいう湊川市場が僕にとっての市場である。“神戸の台所“と呼ばれ、ハートフルみなとがわ(及び湊川グルメ)、マルシン市場、湊川商店街、東山商店街をまとめて「神戸新鮮市場」と呼んでいる。特に、ハートフルみなとがわ(当時は湊川中央市場)の「肉工房まるよし」のホルモン焼は今でも大好物で、立ち食いできるのも市場ならでは。その向かい、「くわの園」のグリーンティーもあと口にいい。東山商店街にある「マルカ」のミックスジュースも定番だ。その他、豆腐店のソップ(豆乳)なども欠かせない。


僕は古書店も営んでいるのだが、毎年、長田の丸五市場で開催しているイベント「ハローマーケット」に出店している。この丸五市場で有名なのは、そば焼「いりちゃん」。かつて、神戸デパートで営業していたそば焼「金六」の味を引き継いでいる。これを食べるのも出店の楽しみの一つだ。また、丸五市場の建物は何と市場が開設された1922年当時のもの。戦災・震災も潜り抜けた、市場建築としても貴重なものである。

スーパーは営業時間や品揃えの面でも便利でいい。だが、やはり同業でも店によって個性があり、量り売りやその場で食べる楽しさもある市場は楽しい。しかしながら湊川や丸五も空き店舗が増え、かつての賑わいには及ばないのが残念である……。
ところが救世主が現れたのだ。天吾君の師匠である桂南天氏である。東山商店街の「スルメのおかやん」をラジオで紹介したことで大行列が。湊川公園東商店街の「豆福」も然り。こうなったら市場の各店舗をことごとく南天氏にラジオで紹介してもらうしかない! これで行列のできる市場誕生間違いなし?
(文=サブカル郷土史家 佐々木孝昌)
※ラジオ関西Podcast『神戸放談』#15「神戸の名物は市場?」より




