生まれも育ちも神戸市中央区でサブカル郷土史家の佐々木孝昌(神戸史談会、神戸史学会・会員)が、北区出身で落語家の桂天吾と、神戸のあれこれについてポッドキャストで語る『神戸放談』(ラジオ関西Podcast)連載シリーズ。今回のテーマは「須磨区」です。
須磨のイメージといえば海だろう。海と並行して走る国道2号沿いだけが「須磨」と思ってしまうぐらいの、印象の強さではないだろうか。だが、須磨区も広い。山に囲まれた妙法寺や名谷周辺、山や丘陵を削って造成された須磨ニュータウンも須磨だ。海のイメージとはギャップがある面も持つのだ。
とはいうものの、遊びに行くとなると海沿いから山麓の旧市街がメインだ。須磨海岸はもとより、神戸須磨シーワールド・綱敷天満宮・須磨海づり公園・須磨浦公園・須磨浦山上遊園・須磨離宮公園・須磨寺……などなど。山の方だと、日本最古の厄除けの霊地といわれる多井畑厄除八幡宮、妙法寺、競技場と球場のある総合運動公園などがあるほか、鉄拐山や須磨アルプスといった背山の登山も楽しめる。ちなみに、ラジオ関西も元々は須磨にあった(須磨シーワールド西端の国道を挟んだ対面)。
北区出身の落語家・桂天吾君は、ふだん須磨に行くことは無いという。まぁ須磨に限らず、取り立てて用が無ければ市内の他区へ行くことは無いだろうが、僕はときどき海沿いをフラッとドライブしに行くことがある。特に、須磨浦公園辺りのシーサイドの景観は素晴らしい。六甲山と並ぶ神戸のドライブコースだ。
須磨の風光明媚な白砂青松は古くから有名で、洋風な神戸の都市イメージとは相反する和風な神戸がここにある。『源氏物語』の舞台にもなっているし、源平の史跡も点在する。近代に入ると、須磨浦から月見山にかけて別荘地やちょっとセレブな住宅地・保養地にもなっていく。離宮公園はそもそもが皇室の武庫離宮(その前身は浄土真宗本願寺派法主・大谷光瑞の別荘)であるし、現在の山陽電車「須磨浦公園駅」前には賀陽宮家の別邸があった。須磨シーワルド西側の海岸沿いは住友家別邸跡である。
また、須磨寺遊園地(現・須磨寺公園)には桜が植樹されて「新吉野」と呼ばれるまでの桜の名所に。動物園や花人形館・料亭などもあったほか、芸妓もいて花街の雰囲気も漂っていた。現在も当時ほどではないが桜があり、公園の池の畔には温泉旅館の「寿楼」が往時を偲ばせているし、須磨寺前商店街には老舗の寿司屋や和菓子屋もあり“門前グルメ”も楽しめる。

行楽地としては今や須磨浦公園の桜の方が有名だろうし、ことあるごとに取り上げられる昭和レトロな須磨浦山上遊園のカーレーターが人気だ。現在、東須磨の山際は住宅地となっているが、戦前は地元の名士が開いた広大な敷地に菊園や梅園・桃園などがあった。

一方、板宿は少し雰囲気が変わる。イメージとしては、須磨区というより長田区だ。昔は映画館もあった、下町感のある商店街・市場だ。
こうして見ると、須磨区は住宅地・海水浴・登山・温泉・プロ野球の球場・花見の名所・水族館・遊園地(レトロだが)・商店街・市場・有名な神社仏閣など、生活から娯楽まで区内で完結できるではないか。僕も人生の中で、一度は住んでみたい場所の1つが須磨だ。須磨浦公園の松林の中に庵を建てて住んでみたいものだ。
(文=サブカル郷土史家 佐々木孝昌)
※ラジオ関西Podcast『神戸放談』#25「神戸っ子がみる須磨」より




