

かつてラウンジだったスペースは深夜のように暗い。岡田裕子の「井戸端で、その女たちは」は、そこで展開する。岡田が「十分に評価されていない」と感じた、今はもう亡い女性作家9人が「語り合う」幻想的なインスタレーションだ。ラウンジ内に点在するソファに座ると、岡田が声色を分けて演じる、女性作家らのとりとめのない会話が聞こえてくる。池玉瀾(江戸時代中期の文人画家)、松本奉山(水墨画家)、島成園(日本画家)、山﨑つる子(「具体美術協会」結成メンバーの1人)…。やわらかい関西弁による架空の会話ながら、岡田の表現は彼女たちの実在を感じさせ、現代にも通じる、女性をめぐる社会的な問題について疑問を投げ掛けてくるようだ。

■その他(トレイルエリア、ミュージアムエリア[新池])
誰でも参加できるワークショップ「ことばが開くことばで開く くじびきドローイング」は、トレイルエリアにある六甲山地域福祉センターで開催。同ワークショップは乾久子が2008年に発案、これまでに80か所以上で実施されてきた。くじを引いて、そこに書かれていた言葉をお題に絵を描く。描き終わったら、今度は自分が別のお題を考え、くじとなる紙に記入する。さらにそのお題を見た別の人が絵を描く、というサイクルが続いていく。中には抽象的なお題もあり、描くのに頭を悩ますケースも。乾は「ほかの人の作品を見ると、自分が描いたらこうはならないと思い、人の想像力のすごさに気付くのでは。くじを引いた途端、心の奥のアーティストへの扉が開くだろう」と話す。

六甲山上で花開くアートは美術作品だけにとどまらない。美術作家のやなぎみわによる鋳造作品「大姥百合(オオウバユリ)」は、ROKKO森の音ミュージアムの新池のほとりで、周囲の植物に溶け込みながらたたずむ。オオウバユリは開花まで7~10年かかり、一生に一度しか花をつけない。やなぎは同作を通して、女性という性や老いに焦点を当てた。
舞台演出家でもあるやなぎは、鋳造作品と同タイトルの野外パフォーマンス作品も制作。新池で展開する川俣正のインスタレーション作品「六甲の浮橋とテラス Extend沈下橋2025」を舞台とし、音楽とダンス、語り、念仏による物語を上演する。開催は9月27日(土)と28日(日)で、両日とも午後6時から。やなぎは「会場は山の上なので天候が変わりやすい。風が吹いたらBバージョン、雨が降ったらCバージョンというように演出の準備をしている」と明かし、「(野外公演は)ものすごくきれいな空や山などの景色、空気をいただける時がある。パフォーマンスで、六甲山の草花や虫、動物など万物が1つになる瞬間が立ち上ったら良い」と意気込んだ。


今年の「神戸六甲ミーツ・アート」のテーマは「環境への視座と思考」。総合ディレクターの高見澤清隆は「環境とは自然環境ばかりでなく、家庭や学校での環境など身のまわりのあらゆる現象・事物を指す」とし、「意味の分からない作品に出会った時、シャッターを下ろさずに『これが作品と言われるのはなぜだろう』という新しい視点を持ってほしい。環境全般に対する新たな視座の獲得につながるのでは」と期待する。その上で、「六甲山を歩きながら作品を見て回って、皆さんに心惹かれる作品を見つけてもらいたい」といざなった。





