100年前のフランス・パリ。当時の華やぎと未来への期待を切り取り、そのまま持ってきたかのような展覧会が大阪中之島美術館(大阪市北区)で開かれている。このたび始まった「新時代のヴィーナス!アール・デコ100年展」では、「アール・デコと女性」をテーマに、フランスを中心とするヨーロッパの多彩なポスター、ジュエリー、ドレス、香水瓶、そして乗用車の現物までもラインアップ。第1次世界大戦と第2次世界大戦のはざまに花開いたアール・デコ様式のエネルギッシュな美が展示空間いっぱいに広がる。2026年1月4日(日)まで。

1925年、パリでは芸術史上きわめて重要な「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」(通称アール・デコ博)が開催された。本展は、同博覧会から100周年を記念して企画されたもので、全6章+特別章の構成。約160点の展示資料のうち、3分の2ほどはポスターコレクションで、いずれも「サントリーミュージアム天保山」(2010年閉館)から同館に寄託されたもの。
女性をモデルにしたポスターは、彼女たちのライフスタイルの変化を鮮やかに物語る。展覧会のメインビジュアルにもなっている「2枚の切り札、ヴィオレ社」(1920年)は、化粧を施した端正な顔立ちの女性に、口紅など化粧品が描かれたカードが重なる印象的な構図。最初の大戦後、女性が外に働きに出るようになり、メークが一般に普及し始めたころの化粧品会社のポスターで、赤、黒、白、金のくっきりとした配色、左右対称のレイアウトが強烈なインパクトを打ち出す。

日常の変化に伴って、女性たちの髪型はショートへアに、長かったドレスの裾は膝丈に変わった。経済的自立を果たした女性たちは、休みの日にゴルフやスキー、海水浴、テニスなどを楽しむようになる。鉄道網の飛躍的な発達と連動して、数多くの観光ポスターが制作され、そこにはファッショナブルな装いでスポーツを楽しむ女性の姿が登場した。「エコール・ド・パリ」の画家として名高い女性画家マリー・ローランサンは、イベント告知のポスター「パリの夜会」(1924年)で、優雅に馬に乗る女性を淡い色彩で描いた。


パリのキャバレー「ムーラン・ルージュ」で人気を博した女優ミスタンゲットは、アール・デコ時代のスーパースター。彼女を題材とした大型グラフィック作品の特集コーナーには、パーマのかかった短髪に大きな瞳、つけまつげの特徴的なミスタンゲットのポスターが並び、まるで当時の街角のよう。中でもバラを口にくわえた顔の上下に「ミスタンゲット」「ムーラン・ルージュ」とだけ記したシャルル・ジェスマールの作品は、必要な要素のみでシンプルに画面を埋めた、きわめて洗練されたデザイン画だ。

そのほかフランスの高級宝飾ブランド「ブシュロン」の豪華なジュエリー、コルセットから解放された女性たちが着用したさまざまなローウエストのドレス、BMW社のクラシックカーなど見どころ多数。さらに、アール・デコ博の公式ポスター、カタログ、同博に出品されたルネ・ラリックの彫像の一部なども公開している。いずれの展示品からも、女性たちが胸を躍らせた時代の熱が伝わってくる。





