阪神・淡路大震災から30年。同震災で壊滅的な被害を受けた神戸市長田区を舞台に、人と人、まちとの絆を描く映画「ただいま、鉄人。」の製作が進んでいる。JR新長田駅(同区)南部の再開発ビルなどを管理する「新長田まちづくり株式会社」がさらなる地域活性化を目指して手掛けたもので、長田ならではの魅力あふれるスポットでロケを展開。2026年6月の公開に向け、関係者や地元の熱気は高まっている。
「ただいま、鉄人。」は、若松公園(同区)に設置された「鉄人28号モニュメント」を起点とした物語。モニュメントの近くで育った子どもたちが大人になり、地元での再会を経て、それぞれの人生を歩んでいくヒューマンストーリーだ。製作に携わる「KOBE鉄人プロジェクト」の岡田誠司さんは「子どもの頃、鉄人28号モニュメントの建設という驚きを体験した登場人物たちが成長し、家業を継いだり、地元を出たものの帰ってきたりとさまざまな選択をする。自分なりの答えを見つけていく彼らの姿を通じ、大震災を乗り越えたまちだからこそ存在する人と人の絆、その絆が生み出す勇気と笑顔を伝えたい」と、作品に込めた思いを語る。

同モニュメントは、新長田にゆかりの深い漫画家・横山光輝さん(1934~2004年)の代表作「鉄人28号」のキャラクターを模したもので、2009年、復興のシンボルとして建設された。「新長田は震災で大規模に焼け、元のまちの形がなくなってしまった。子どもたちが成長して地元を離れ、故郷を思った時、思い描ける原風景を作りたいと思った」。そう話すのは、モニュメントの建設事業を手掛けた「新長田まちづくり―」の中川欣哉会長。「『うちのまちには鉄人があんねん』と言ってもらいたい」との願いから、モニュメントは、北側を走るJRの車内からもよく見える、身長約18メートルの堂々たる“体格”に。新長田の象徴として幅広い世代に親しまれ、周辺ではさまざまなイベントが定期的に開催されている。
映画では、モニュメントはストーリーの要となるシーンで登場。「完成から15年が経ち、鉄人がある風景は日常 になり、同時にまちのみんなの誇りになった」と岡田さん。地元を離れて帰ってきた人が鉄人に話しかけるイメージから、作品タイトル「ただいま、鉄人。」が浮かんできたと明かす。
映画製作の背景には、震災30年を機に「今の新長田を記録し、人々の記憶に残したい」という意図がある。“密集度日本一”とも言われるお好み焼き店、地場産業のケミカルシューズ工場、名物ケーキで有名な洋菓子店、レトロな理髪店など、地域の魅力をダイレクトに伝えるロケ地を選定、お店や施設の協力を得ながら和気あいあいとした雰囲気で撮影が進行中だ。関西の俳優を対象としたオーディションで決まったキャストの中には、新長田生まれで今も居住している人もいるという。岡田さんは「舞台となる新長田の風景や人情、下町文化の魅力を存分に味わってもらいたい。鑑賞後はぜひ“聖地巡礼”もしてほしい。ロケ地の範囲は広くないので、1日あれば楽しくおいしく回ってもらえる」とPRする。

一方、新長田という地名につきまとう「被災地」「焼け野原」という連想を払拭したいという思いも。地元では、1月17日に毎年繰り返される「復興への道のりは半ば」的な報道を残念がる地元の人も多いという。「地域の人々の努力もあって、新しい施設やおしゃれなお店もいろいろできた。最先端のスポットとディープなまちなみが混在しているのが今の新長田の魅力。映画を見てそのことを知ってほしい」と中川会長。そして、「全国の被災地の人々にも『明けない夜はない』というメッセージを伝えられたら」と付け加えた。
映画公開の正式な日程などは、決まり次第、「KOBE鉄人プロジェクト」のサイトで公表される。




