エロイカ、パタリロ、ひばりくん…楽曲から探る昭和BL漫画・アニメの魅力

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 昭和歌謡、昭和ポップスにスポットライトを当てたラジオ番組で、昭和のBL(ボーイズラブ)漫画、アニメに関する楽曲が特集されました。

『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』(ラジオ関西)では、昭和のBL漫画やアニメの成立の経緯と魅力について、シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリさんが楽曲に触れながら解説。橋本菜津美さん(シンガーソングライター、インフルエンサー)とともに語り合いました。

昭和のBL漫画・アニメを関連楽曲を通して一挙紹介!

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 近年、『おっさんずラブ』(テレビ朝日)、『きのう何食べた?』(テレビ東京)をはじめ、男性同士の恋愛をテーマにしたドラマや漫画が話題になっています。

 中将さんによると日本の漫画、アニメ界でトランスジェンダー的な世界観が注目されるきっかけになったのは手塚治虫さんの『リボンの騎士』(1953年~)。中将さんは「女の身体、男女両方の心を持つという設定のサファイア王子に独得のエロティシズムを抱いた人は多かったのでは?」と持論を展開します。

 その後、1976年に週刊少女コミックで連載スタートした竹宮惠子さんの『風と木の詩』はじめ、ヨーロピアンで”お耽美”な世界観の同性愛、少年愛漫画が商業誌でヒット。イメージソング制作やアニメ化などメディアミックスされ、より多くの層に広まっていったといいます。

 中将さんが初めにBL歌謡として挙げたのは、アニメ『エロイカより愛をこめて』(1976~)のイメージソング『ロマンティック・アゲイン』(水木一郎・1982年)。男色の美術品窃盗犯「怪盗エロイカ」ことドリアン・レッド・グローリア伯爵ら個性的キャラクターを時にハードボイルドに、時にユーモラスに描いた作品によく似合いのムーディーな楽曲で、コロムビアゴールデン・ディスク賞とゴールデンLPテープ賞を受賞しています。

 続いて紹介されたのは、アニメ『パタリロ!』(1982年~)のエンディングテーマ曲『美しさは罪』(竹田えり・1982年)。『パタリロ!』は『エロイカより愛をこめて』のオマージュ的な設定の作品ですが、こちらの楽曲も思い切りムーディーかつお耽美。

 強烈な楽曲の連続に、BLファンを自認する橋本さんは「どちらの曲からも、この時代特有のBLのムンムンとしたヨーピアンな魅力を感じます」とのこと。

 お次はアニメ『六神合体ゴッドマーズ』(1981年~)の挿入歌『17歳の伝説』(三ツ矢雄二・1982年)。当時のBLブームは合体ロボットアニメ界にも飛び火したそうです。

 同アニメはそもそもそういう狙いはなかったものの、主人公の明神タケル(マーズ)と敵方になった双子の兄・マーグの関係がいわゆる腐女子層に受け、熱狂的な盛り上がりに。制作側もそれにこたえ、最終話ではマーグ役の三ツ矢さんが歌うお耽美美少年ソングを挿入歌に使用したという話も。

 こうした経緯に、橋本さんは、『テニスの王子様』と同種の腐女子的な盛り上がりを感じたそうです。

 ラスト2曲はアニメ『ストップ!! ひばりくん!』(1983年~)からオープニングテーマ曲『ストップ!! ひばりくん!』(雪野ゆき・1983年)と、エンディングテーマ曲『コンガラ・コネクション』(星野アイ・1983年)。

 同作の主人公はいわゆる“男の娘”の大空ひばり。中将さんは「これまでのようにヨーロピアンだったりSFだったりというのではなく、ごく平凡な学園モノの中に美少女と見紛うような男の娘が登場して周囲をかき乱してゆくというのが斬新」だといいます。

 また、中将さんは、作者の江口寿史さんはそもそもひばりを滑稽なキャラクターとして描こうとしていたが、人気が高まりすぎて、それができなくなったことを指摘。社会のBLへの関心の高まりが制作側の意図を超えていたことに言及するとともに、『コンガラ・コネクション』の「誰かスッキリさせてよ とてもまともじゃないのよ」という歌詞にも制作側の理解の限界を感じると述べました。

 1970年代後半、1980年代前半のBLブームはその後、高橋留美子さんの『らんま1/2』、奥浩哉さんの『変』などトランスジェンダーもの、BLもののヒットに引き継がれていきます。中将さんは、「LGBTへの偏見がまだまだ当然のように残っていた時代に、漫画、アニメ界でこのような作品が人気を博していたことは非常に興味深い」と述べ、番組を締めくくっていました。

ラジオ関西「中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス」収録風景

※ラジオ関西『中将タカノリ・橋本菜津美の昭和卍パラダイス』より


(2025年10月17日放送回)

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