コロナ禍でよみがえった40年の旅の記憶。世界各地を巡る中で出会った風景や人々の姿を、白と黒のコントラストで描いた切り絵の画文集が、4月6日に刊行された。
40年以上にわたる旅の記憶をもとに制作された『切り絵で世界旅 世界は広く、深く、面白い!』(あけび書房)。著者の竹内明久さんは、コロナ禍で外出が制限されたことをきっかけに、1978年から2019年までに訪れた各地の風景や人物を振り返りながら制作に取り組んだという。
「どこにも行けない不自由な日々の中で、これまでの旅を切り絵とコピーにして残しておくのもいいのではないかと考えた。制作中は、過去を思い出しながら、再び世界を旅しているような気分だった」
今作は、ベースにした写真の中から「今も深く印象に残り、人に語りたくなるもの」「構図や表情で人を惹きつけるもの」という基準で100点ほどを選び、約2年をかけて制作。表現手法として切り絵を選んだ理由について、「モノクロ写真にはグレーもあるが、切り絵は白と黒だけ。よりインパクトのある表現ができる」と話す。不要な要素を削ぎ落としながら、細部を際立たせられる点も魅力だという。
例えば、表紙に採用したバリ島の伝統舞踊「バロンダンス」の女性については、「目や首、指先のアクロバティックな動きを際立たせるため、そこは正確に切り、背景はほぼ黒のままで、踊り手が前面に迫るようにした」と明かす。
旅の中でも特に印象深い出来事として挙げたのは、初めて訪れたインドとネパールでの体験だ。オールドデリーの雑踏や現地の人々との交流。中でもガンジス川流域での光景は強烈だった。「沐浴する人、瞑想する人、洗濯をする人、観光客に花を売る少女など、混沌としたパノラマに圧倒された」と振り返る。さらに、火葬場のリアルな様子なども目にし、「インド人が信じる輪廻転生を眼前で見せつけられた」思いがした。こうした体験を重ねる中で、「世界を身近に感じ、視野が広がった」と、旅の意義を話す。
兵庫県豊岡市出身の竹内さんは、編集者・コピーライターとして活動する傍ら、2010年から神戸を拠点に切り絵制作を続けてきた。切り絵作家・成田一徹さん(故人)の教室で技法を学んだ。2019年には、元町高架通商店街(通称モトコー)の風景を切り絵と文章で記録した作品集『犬の目、人の眼差し』を出版。戦後の闇市の面影を残す街の姿を「神戸の昭和遺産」として描き出し、変わりゆく街の記憶を作品として残してきた。
今回の新刊では視点を世界へと広げた。「旅は好奇心を満たすだけでなく、自らの知見を広げるもの。旅の話では滅多にケンカにならない」と竹内さん。「お互いの旅を話し合うことで、気心が通じ合うこともある。この本で旅に興味を持ってもらえたら」と述べた。
問い合わせは、竹内さんのメール(dada@s8.dion.ne.jp)へ。


