写真のように見えるが近づくと鉛筆で細かく描かれていることがわかる。毎日描き続けた自画像や1文字1文字をすべて書き写した新聞紙など、リアルすぎるほどリアルな作品を生み出した吉村芳生の回顧展、特別展「吉村芳生~超絶技巧を超えて~」が、神戸市東灘区の六甲アイランドにある神戸ファッション美術館で開催されている。6月13日(日)まで。(※【2021年5月24日追記=会期は6月20日まで延長】)
吉村芳生は、1950年山口県で生まれた。2007年、57歳の時に「六本木クロッシング展」(東京・森美術館)に出品した作品が大きな話題となり、現代アートシーンで注目を集めるようになった。
「リアルすぎるほどリアル」と言われる吉村の作品は、日常の風景をテーマにしているものが多い。自ら撮影した写真に細かくマス目を引き、例えばモノクロの作品では各部分を色の濃さによって10段階に分け、ゼロなら斜線1本、1なら2本、そして9なら10本と記号化し、それを紙に描いていく。遠くから見ると1つの風景や物に見えるが、近づいてみると小さな細かい斜線が並んでいるのがわかる。
また、1文字1文字を書き写した新聞紙は、文字だけでなく写真や広告も描かれている。その上に描かれた自画像の表情は、その紙面を実際に見た際の吉村自身の表情だという。
1985年、吉村は故郷の山口にアトリエを構える。このころから120色の色鉛筆を使って花を描くようになる。バラやケシ、コスモスなど自然にあるものを題材にし、その描写は写真と錯覚してしまうほど緻密だ。花そのものの名前を作品のタイトルにしているものが多い中、2011年から13年の《無数の輝く生命に捧ぐ》は、藤棚を描いた。花ひとつひとつが東日本大震災で失われた命=魂を表現した。
色鉛筆画で最大10メートルを超える作品《未知なる世界からの視点》は、川の中州を描いた。菜の花が川面に映っているのだが、よくみると天地が逆になっている。上下を逆にすることで、虚構と現実、日常と非日常が入れ替わることを描いたという。
特別展では吉村芳生の回顧展として、初期のモノトーンによる版画やドローイングから亡くなる直前の作品まで代表作およそ60点が展示されている。どの作品も「鉛筆で描いた」とは思えないほど。ただ上手いだけではなく、描くこと、生きることの意味を問いかけるような真摯な姿勢を感じることができる。
◆特別展「吉村芳生~超絶技巧を超えて~」
会期 2021年4月10日(土)~6月13日(日)
※緊急事態宣言に伴う兵庫県の対処方針に従い、4月25日~5月11日は臨時休館
会場 神戸ファッション美術館(神戸市東灘区向洋町中2-9-1)
休館日 月曜
※【2021年5月24日追記=会期は6月20日まで延長】
【特別展サイト(神戸ファッション美術館HPより)】