「母親が施設内で虐待を受けている」、探偵事務所へ寄せられた依頼をもとに、普通のおじいちゃんがスパイとして雇われて潜入調査。ドキュメンタリー映画『83歳のやさしいスパイ』が今月、各地で順次公開されます。
主人公は、妻を亡くしたばかりで新たな生きがいを探している83歳のセルヒオ。舞台はチリ。“80歳から90歳の男性募集”という探偵事務所の求人に応募し、採用されます。与えられた任務は、老人ホームの潜入調査で、「自分の母親が施設内で虐待を受けている。そして盗難にあっているのでは。証拠を押さえてほしい」という依頼です。
「妙な求人があるもんだと思ったよ」
「老人ホームに潜り込んでもらう」
ところがセルヒオはスマホを使ったことがなくて、雇い主のロムロから写真撮影やメール送信など電子機器の使い方を習います。
「これは小型カメラだ」
「次は音声メッセージを送ってみてくれ」
セルヒオは首都サンチアゴの郊外にある「聖フランシスコ特養ホーム」へ入所者として住み、ミッションを開始します。ところが優しくて涙もろいセルヒオは、入居する女性の相談にのったり、恋心を告白されたり、人気者として目立ってしまうのでした……。
マイテ・アルベルディ監督は、老人ホームのありのままを撮るため、ホーム側に偵察目的だとは伝えずに、セルヒオが入る2週間前から撮影を始めるなど工夫したそうです。監督が私立探偵の助手をしていたときに「身内が老人ホームでどんな生活をしているか調べてほしい」という依頼がしばしばあったということで、このテーマを取り上げることにしました。
この映画を見ると、老人ホームには家族と離れて暮らす孤独にさいなまれる人がいます。子どもにかえったようにホームの生活を気ままに楽しむ人もいます。施設でどんなレクレーションが行われているか、入居者と職員がどんな風に会話をしているか、分かります。