秋ですね。緑だった木々の葉も色づき始めています。「実りの秋」でもあります。
ある日のこと。若い人との会話で「『かきおとし』って何ですか?」と尋ねられたので、柿の実の落とし方や取り方を説明しました。すると、「いや、そうじゃなくて」。見せられたチラシに書かれていたのは……「杮落し公演」。
「それは『かき』とちゃう、『こけら』や!」と、思わず叫びました。
見出し画像の字を見ていただければ違いがわかります。「柿(かき)」は、右側のつくりの部分は「市」で、上部は「なべぶた」(横棒の上に点が乗っている)。一方「杮(こけら)」は1本の縦棒が横棒を突き抜ける形で、上から下までつながっているのです。
ちなみに「杮(こけら)」の意味ですが、『新明解国語辞典』(三省堂)によりますと……
「材木を削った木片。けずりくず。[狭義では、屋根をふくのに使う薄い板を指す。]」とあります。そして「こけらおとし」の項目には「[建築工事が終わって足場などの杮(こけら)を払い落とすことから]新築の劇場や映画館で行われる最初の興行」と記されています。
また、『日本語源大辞典』(小学館)には、参考項目の2番目に「木片を意味する語は、次第に『こっぱ(木っ端)』に代わられ、『こけら』は屋根の葺板をさすことが多くなっていった。劇場の新築落成を祝う初興行の『こけら落とし』もこの語に由来する」と載っていました。
「柿(かき)」と「杮(こけら)」。一見すると同じ字に見えますが、意味はまったく違います。パソコンやスマートフォンなどで打ち込む際には、字体(フォント)によってはまったく同じ字と勘違いしてしまいますので、字体による見え方にも注意してください。もちろん、ペンで書く時にも気を付けてください。
言葉は時代とともに、その意味も使い方も変化します。「ことばコトバ」では、こうした言葉の楽しさを紹介していきます。