サントリー宣伝部時代に数々の名CMを手掛けた後、現在は作家として活躍中、「バー・リバーサイド」シリーズなどでおなじみの吉村喜彦氏が、大阪を舞台にした新刊『バー堂島』を発表した。
これまで「バー・リバーサイド」シリーズでは、東京・二子玉川にある架空のバーで読者を心地よく酔わせてくれた。今回の新作「バー堂島」は、吉村氏の故郷である大阪が舞台になっている。
物語の主人公は「バー堂島」のマスター、楠木正樹。大学時代にブルースバンドを組み、レコード会社に目を付けられ東京に出たが、鳴かず飛ばずで、二子玉川のバー・リバーサイドでアルバイトをしながらミュージシャン活動をしていた。しかしついに「もうあかん」と思い海外逃亡。世界各地で音楽とバーテンダーの修業をし、生まれ故郷の大阪で小さなバーを堂島にオープンした。物語は、春夏秋冬の季節を巡って、4つの短編が収められている。
大阪・堂島を舞台に選んだ理由を「母国語である関西弁を使って、イキらない言葉で伝えたかった」と語る吉村氏。本編には堂島川が夕暮れのあかね色に染まっていくような、大阪ならではの心地よさがあふれている。
吉村氏にとって、バーは“アジール” (安全地帯)だという。「マスターは年下であっても、父のような存在であり、甘えることで、傾いた心が戻っていくような感覚がある。お酒にはいろんな人の命が入っていて、お酒は命をいただくことだと思う」と語る。
幼少時代はラジオ関西の電話リクエストのファンで、かつてはブルースバンドを結成していたこともあるという、吉村氏。これまで手掛けてきた数々の名作テレビCMも、名曲とともに人々の心に残っている。小説には、吉村氏の人生であるお酒と音楽が散りばめられている。
吉村喜彦『バー堂島』
2019年10月12日発売。
角川春樹事務所
価格 638円(税込み)
バー堂島 | 吉村喜彦氏のホームページ
http://www.monkeyhouse.co.jp/book/bar_dojima/