元高校教諭で、演劇を教育に取り入れた「ドラマティーチャー」として知られる石井路子さん。今年4月に開学した「芸術文化観光専門職大学」(兵庫県豊岡市)の講師に着任したことから、豊岡に移住。現在、同大学で身体表現を軸とした表現教育を行っている。
23日、石井さんがラジオ番組に出演し、表現教育の重要性について語った。出演したのは、同大学の学長でもある平田オリザさん(劇作家・演出家)がパーソナリティーを務める『平田オリザの舞台は但馬』(ラジオ関西、毎週木曜午後1時~)。
石井さんが担当している授業は「コミュニケーション演習」。コミュニケーションについて、演劇的手法を通して考えていく内容で、5人の教員がオムニバス形式で指導にあたっている。
番組では、パーソナリティーの平田さんから開口一番、石井さんの授業が「学生から恐れられている」と、気になる発言が飛び出した。石井さんの授業は、“体を通して他者とどうかかわるか”をテーマに、身体にフォーカスして行われる。平田さんは、「石井先生の授業は体を使ってヘトヘトになるので、学生から恐れられているんです。ダンスの授業より厳しい」と、和やかな笑いを交えて話した。石井さんによると、生身で向き合って話をする機会が減っている昨今だからこそ、おのずと「2時間フルスロットル状態になる」そうだ。
その背景には、学生への真摯なまなざしがある。石井さんは「友達より家族に相談事をする学生が増えているらしくて。その理由を聞いてみると『結局、友達は信用できない』と……」と、学生の心の内を受け止めたうえ、「人に対して不安や恐怖を抱いている若い人が増えている中で、 “コミュニケーションが生まれる場所”をつくってあげることが必要なのではないかと思っています」と、授業の意味合いを語った。
石井さんに呼応するように、平田さんは、コミュニケーション教育の意義として「発見」を挙げた。平田さんいわく「学生も正解を知りたがるし、初等教育でも先に“目当て”を掲げちゃう。それが有効な科目もあるけれど、コミュニケーションでそれをすると、『発見』がなくなってしまう」とし、「アートは一回性ですから、学問みたいな積み上げではなく何かの時にふっとジャンプするもの。だから、本学でもいろんな講師と出会うことが大事だと考えてカリキュラムを組んでいます。物語の仕組みを知るだけで騙されにくくなるし、豊かになる」と語った。
石井さんは、少しずつ変化し、授業でそれぞれが得た「発見」を言語化してくれる学生たちを頼もしく思うとともに、手ごたえも感じているという。「(学生らには)生きる知恵を獲得してほしい。社会をゆるやかにしてくために、『アートの力』を使って人と人との間に入り、ゆるやかにつないでいく……。そんな人材を育てたい。人と協働するときに(コミュニケーションは)必要となるものですから」と、改めてコミュニケーション教育の意義を強調した。
※『ラジコ』では放送後1週間はタイムフリーでの聴取が可能。番組では、平田オリザさんが、ともにパーソナリティーを務める田名部真理さんと、これまでの自身の話しや演劇界への思い、移住拠点となっている兵庫・豊岡、但馬地域について、トークを進めていく。
『平田オリザの舞台は但馬』
放送日時:毎週木曜日 13:00~13:25
放送局:ラジオ関西(AM 558khz / FM 91.1mhz)
パーソナリティー:平田オリザ、田名部真理
メール:oriza@jocr.jp