今年もあとわずか。1年間、この言葉のように頑張ってきた方も多いでしょうね。きょうの言葉は、「一生懸命」……ではなく、「“一所”懸命」です。現代では「一生」と「一所」が混在し、どちらも使われています。
まず「一所懸命」。『広辞苑 第七版』(岩波書店)には…
1)「賜った一カ所の領地を生命にかけて生活の頼みとすること。また、その領地。(以下、一部省略)」
2)「物事を命がけですること。必死。一生懸命」
とあります。そして「一生懸命」には「一所懸命の転」とありました。つまり元々は「一所懸命」で、それが転じて成ったということです。
さらに調べてみたところ、『日本国語大辞典 第二版』(小学館、2003年)など国語辞典の編纂にあまた携わってこられた神永曉(さとる)さんの著書『悩ましい国語辞典』(時事通信出版局、2015年)に詳しく載っていましたので、一部引用します。
「『一所』とは、もちろん『ひとつの場所』という意味で、武士が一箇所の所領を命にかけて守ろうとしたのが原義である。これが近世になると、所領に関する観念が次第に変化し、それに伴って『一所懸命』も『所領を守る』という意味が薄れ、『命がけ』『必死』という意味だけが残っていく。そして『一所』も音の似た『一生』へと変化していく」とありました。そして、「『一所』よりも、音の似ている『一生』の方が、江戸庶民になじみのあることばだったからだと思われる」と。
「一生」の意味は「その人が生まれてから死ぬまでの全時期(を通じて)」(『新明解国語辞典 第八版』/三省堂)。そのことから、「一生をかけて懸命に行う」=「一生懸命」へと変わっていったのも大いにうなずけます。現代では「一生懸命」の方が多数派とみられます。
現代では、多くの人が「一生懸命」を使っているとみられますが、あえて「一所懸命」にこだわっている人たちもいます。日本の伝統芸能界、歌舞伎俳優の皆さんです。名跡を継ぐ「襲名」などに際して「一所懸命、芸道に精進し~」と口上を述べる人もいます。例えば、2016年4月、福岡の博多座で上演された「スーパー歌舞伎II(セカンド)『ワンピース』」でのこと。主演の市川猿之助さんは、「平成28年熊本地震」の被災地に向けたお見舞いの口上で「いつにも増して一所懸命な我々の思いが皆様方、そして被災地の皆様に届くようにやらせていただきます」と観客に伝えました。(※1)「歌舞伎」という「所」で、懸命に生きていく決意を表したすばらしい言葉だと思います。私もアナウンサーという場「所」で、これからも精進していきたい、そんなことを誓う年の瀬です。(これがなかなか難しいのですが…頑張ります。)