いま世界が最も注目している映画監督の1人、濱口竜介さんが、6日、ラジオ番組『平田オリザの舞台は但馬』(ラジオ関西、木曜午後に出演。第74回カンヌ国際映画祭で脚本賞ほか全4冠に輝いた『ドライブ・マイ・カー』の制作秘話などを語った。
濱口さんは、近年、圧倒的な脚本力と映画としての豊かな表現が評価され、世界三大映画祭で名をとどろかせている。『ドライブ・マイ・カー』(2021年)は、数々のベストセラーを生み出してきた作家・村上春樹氏による短編小説の映画化で、監督自ら脚本を手掛け、再構築した。妻を突然失った喪失感を抱えながら生きる主人公が、ある女性との出会いをきっかけに新たな1歩を踏み出すヒューマンドラマだ。
脚本家・演出家で番組パーソナリティーでもある平田オリザさんとは、映画製作にあたってさまざまな角度からヒアリングした縁がある。というのは、西島秀俊さん演じる主人公の職業が「俳優・多言語演劇の演出家」だからだ。濱口さんから映画の感想を求められた平田さんは「映像のすばらしさはもちろんですが、原作のコラージュが素晴らしい。原作の力もありますが、やはり(カンヌで)脚本賞を取るだけのことはあるな、と感じました」と述べた。
そして平田さんの口からは「実は…妻にも言っていないんですが」という前置きのあと、「“多言語演劇の演出家”って日本にそんなにいないんですよ。ですから他人事として見られなくて(笑)。私は2011年に離婚して翌年の1月に(映画の舞台でもある)広島で演出の仕事があって。そこで人生の再生を誓ったんです」という衝撃の告白まで飛び出した。これには濱口さんも絶句。さらに平田さんは、「すぐれた作品というのは、みんなが見て『あ、これ私のことだ』と思う作品なんです。実際に『私のことを書いたでしょ』ってクレームがくることもあります」と、濱口作品に対し“変化球”とも言える形で賛辞を送った。
話題は、映画を取り巻く状況にも及んだ。平田さんが「日本に限らず、昨今の映画製作現場では予算の関係で時間をかけられないことも多く、俳優の演技がなかなか上達しない」と指摘すると、濱口さんは「映画製作は関わる人数が多いので時間をかけるのは大変ですが、今回の作品(『ドライブ・マイ・カー』)に関しては、事前に脚本をお送りしてできるだけリハーサルに時間をかけたいと俳優に伝えました。そういった点でも、演劇に学ぶところは多いと思います」と答えた。
加えて、仕事を共にした韓国の俳優の確かな演技について、「今回の作品で手話を用いた表現をされている俳優のパク・ユリムさんは、韓国でもそこまで有名な方ではないのですが、すべてのシーンが素晴らしい。ピンポイントで毎回ホームランを打ってくる。(韓国俳優の)層の厚さを感じます」と語った。これに対し平田さんは、「韓国は、俳優を養成する大学がたくさんあります。(日本でも)基礎をしっかりやったのちに、映画や舞台の世界にすすむことができれば」と希望を述べた。
番組には、次回も濱口竜介さんが出演。最新作『偶然と想像』(2021年)について聞く予定。
※ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』2022年1月6日放送回より
【映画『ドライブ・マイ・カー』公式サイト】
※『ラジコ』では放送後1週間はタイムフリーでの聴取が可能。番組では、平田オリザさんが、ともにパーソナリティーを務める田名部真理さんと、これまでの自身の話しや演劇界への思い、移住拠点となっている兵庫・豊岡、但馬地域について、トークを進めていく。
『平田オリザの舞台は但馬』
放送日時:毎週木曜日 13:00~13:25
放送局:ラジオ関西(AM 558khz / FM 91.1mhz)
パーソナリティー:平田オリザ、田名部真理
メール:oriza@jocr.jp