前衛美術グループ・具体美術協会(「具体」)を代表する作家のひとりで、クラフト紙を体当たりで突き破る作品・通称「紙破り」で知られる村上三郎の、およそ50年にわたる活動を紹介する特別展「限らない世界/村上三郎」が、芦屋市立美術博物館で開催されている。2022年2月6日(日)まで。
村上三郎は1925年、神戸市御影生まれ。関西学院大学大学院で美学を専攻し、卒業後1955年に「具体」に加わった。特別展では具体前後の時代にも焦点をあて、絵画の他、初公開の自筆メモを含むおよそ300点の資料から、1996年に亡くなるまで村上が追い求めた「時間」「空間」そして「存在」に触れる。
1957年に制作された通称「剥落する絵画」は、白の下地に赤、黒の絵の具を重ね、さらに膠(にかわ)を塗り重ねた作品。時間が経つとともに塗料がはがれ落ちており、大槻晃実学芸員は「この会期中にもはがれ落ちて変化している」と話す。
また、カンヴァスに様々な色の絵の具がダイナミックに乗せられた作品は、村上が大きく腕を振って描かれたもの。絵の具が乾くまでに垂れた痕が、「絵画と真剣に向き合った結果生まれる」として、平面での表現を追求していたという。
時を超えて、鑑賞者が「今」作品として完成させるものもある。屋外に展示されている<空>は、高さ3.8メートルの「布でできたロケット」のような作品。鑑賞者はこの中に入り、頂上部分に丸く開いている穴から「空」を見る。また額縁のような<あらゆる風景>は、鑑賞者がどの風景を切り取るかに委ねられる。いずれも発表されたのが1956年、その後1993年に村上自身によって再制作されたものだ。鑑賞者が「参加することによって」唯一無二の作品となる。
村上は1970年代になると、パフォーマンスの要素が強い作品を発表する。会期中一言も言葉を発せず過ごす個展<無言>や、個展会場を訪れた人が芳名帳に名を書くとすかさずペンで消してしまう<自同律の不快>など、その場で生まれた時間が作品となった。形として残らないが、村上が残したメモや写真、資料からその思いを探ることができる。
一方で、村上は子どもたちに絵画を教え、「三ちゃん先生」として親しまれていた。子どもたちに対する思いが詰まったメモも展示されている。そもそも代表作「紙破り」は、自身の長男が襖を破ったことから着想を得たといい、大槻学芸員は「子どもたちへ優しいまなざしを向けていた。子どもたちと一緒に楽しんで、作品作りにつなげていたのではないか」と話す。
村上の作品に関してはまだ研究されていない点が多く、残されたメモや資料などから今後新たな発見につながる可能性があるという。大槻学芸員は「特別展が村上を知るきっかけ=入口になってほしい」としている。なお、代表作<紙破り>は写真や映像などの関係資料を展示している。
◆芦屋市立美術博物館 開館30周年記念 特別展「限らない世界/村上三郎」
会場 芦屋市立美術博物館
会期 2021年12月4日(土)~2022年2月6日(日)
休館日 月曜
電話 0797-38-5432
【公式サイト】