26人が犠牲となった2021年12月の大阪・北新地ビル放火殺人事件で、大阪府警は16日に、殺人・現住建造物等放火容疑で、現場から心肺停止状態で搬送され死亡した谷本盛雄容疑者(61)を書類送検した。生活が困窮し周囲から孤立する中、大勢の人を巻き込む「拡大自殺」を図ったとみられる。
17日で事件発生から3か月となるのを前に、大阪府警は捜査で判明した内容について遺族への説明を終えたという。容疑者が死亡しているため、大阪地検は不起訴とする見通し。
大阪府警によると、谷本容疑者は現場となったビル4階の心療内科クリニックで心肺停止状態となり、クリニックの患者や関係者26人とともに搬送された。顔や手にやけどをし、重度の一酸化炭素中毒や気道熱傷もあったが、集中治療で蘇生していた。ただ一時心肺停止になったことで脳が損傷し、心肺機能も衰え死亡した。死因は重度の一酸化炭素中毒による心肺停止の蘇生後に生じた脳の損傷 「蘇生後脳症」だった。
■動機の詳細、特定に至らず捜査終結
谷本容疑者は2021年12月17日午前10時15分ごろ、大阪市北区曽根崎新地の雑居ビルに入る心療内科クリニックにガソリンをまいて放火し、院長の男性(49)ら院内にいた26人を殺害するなどした疑いが持たれている。事件当日は休職した人らの職場復帰をサポートするために集団治療を行う「リワークプログラム」の予定があり、多くの利用者が来院していた。
谷本容疑者は2017年から事件直前までこの心療内科に計112回通院。所有していた住宅の家賃収入が近年は途絶え、2015年に約150万円あった口座残高は2021年1月に83円を引き出し、底を突いていた。スマートフォンには交友関係を示す通話履歴はなかった。
スマートフォンのスケジュールアプリには、事件の半年前からクリニックの出入りを下見するなど、計画性をうかがわせる記録があった。利用者が集中する日を狙ったとみられ、「日本史上最悪の凶悪事件はどんな事件がありますか」という内容や、多数の死傷者が出た国内外の放火殺人事件を調べた履歴も残っていた。
谷本容疑者は通院時に、院内の消火栓扉に、すき間を埋めるための「コーキング剤」を施し、扉を開けにくく細工していた疑いがある。当時住んでいた西淀川区の住宅では事件の約30分前にぼやがあった。自ら火を付けた後、自転車でクリニックに移動し、ガソリン入りの紙袋2つを現場に持ち込んで放火したとみられる。
※容疑者の逮捕前実名公表について
大阪府警は事件発生2日後の2021年12月19日、逮捕状請求前に容疑者の氏名を公表した。
その理由について▼被害者や遺族が(容疑者の)特定を望んでいた▼事案(事件)の重大性を挙げた。
また、容疑者が重体になっていなければ逮捕状を請求する段階まで捜査が進んだ点も踏まえたとしている。なお本記事でも事件の重大性と社会的影響を鑑み、死亡後の容疑者の氏名を実名で報道している。