職人やブランドの技術が詰まっているアナログ時計ですが、それらを「どのように美しく見せるか?」というところにも各ブランドの試行錯誤と努力を見ることができます。その一例として、各ブランドが使うアナログ時計の商品写真のほとんどが「10時10分」付近を指していることはご存知でしょうか。
主要な時計ブランドのカタログを見てみると、ロレックスは「10時10分31秒」、オメガとIWCは「10時8分37秒」、シチズンは「10時9分35秒」、アップルウォッチはアナログ表記で「10時9分30秒」をそれぞれ指しています。なぜ時計ブランドのアナログ時計はカタログ上で「10時10分」付近を指しているのか? その理由について、セイコーウオッチの広報担当者に聞きました。
セイコーのアナログ時計がカタログやパンフレット、ウェブ上で指す時間は全て「10時8分42秒」です。そこには、(1)時・分・秒の針が重ならないこと、(2)美しく、引き締まって見えること、(3)ブランドロゴが隠れないこと、の3つの理由が隠れていると広報担当者は言います。セイコーは1964年以降にパンフレットなどでこの時間を採用。それまでの広告では、それぞれがバラバラの時間を指していましたが、全てのセイコーの時計が「10時8分42秒」を指すようになりました。
きっかけはアメリカの広告表現である「シズル感」に感化されたことによります。当時の宣伝部担当者は、見ているだけでおいしそうなビーフステーキの広告を見て、「時計の広告も見ているだけで動きを感じる表現はないか?」と検討を重ねました。そこから以上の3つの理由を踏まえた上で、躍動感のある「10時8分42秒」に決めたと言われているそうです。
広報担当者は「『(1)の理由の通り、重ならないことによって一目で二針なのかがわかるということ』『(2)の通り、長・短針の両方が上向きのために、時計の表情がキリリと引き締まって美しく見える』という2点に、当時の宣伝担当者は躍動感を抱いたのではないでしょうか?」と語ります。
またカタログ上で「10時9分35秒」を指すシチズン時計の広報にも聞きましたが、その理由はセイコーと同様のもの。シチズンは比較画像も用意しており「10時9分35秒の方がより素敵に見えませんか?」と問いかけています。確かに比較してみると、「10時9分35秒」の方が魅力的に見えるような気がします。
ちなみにセイコーのデジタル時計は、アナログ時計と17秒違いの「10時08分59秒」を示しています。これについて広報担当者は、「数字で画面に表記されるデジタル時計だと『42=死に』と縁起の良くない数字になってしまう」、「さまざまな数字の形が見られて『動き』を感じることができる」と、その理由について説明します。