私たち放送に関わる者とって、地名を正しく読む(伝える)ことは、とても重要です。正しく読むのが当たり前です。しかし、その土地の方でさえ、知らないこともあります。まして県外から来た人にとっては大変です。
今回のタイトルの「柏原」。皆さんは何と読みますか? 私はこの大阪府柏原市の近くに通学していたため「かしわら」と読んでいました。ところがこの言葉は、異なる読み方が多い字だったことをその後知りました。1980年代から歌手を中心に活動している柏原芳恵さん。大阪市出身の彼女の名前は「かしわばら・よしえ」。私が勤務する放送局がある兵庫県にも「柏原」と書く地名があり、こちらは「かいばら」。実にややこしいのです。
これまで、放送で私が聞いたことがある誤った読み方の一例を上げます。兵庫県宍粟市(しそうし)→「あなくりし」(「あな」でも「くり」でもない字ですが、つい読んでしまうようです)、兵庫県養父市(やぶし)→「ようふし」、奈良県大和郡山市(やまとこおりやまし)」→「やまとぐん やまいち」、奈良県田原本町(たわらもとちょう)→「たわらほんまち」。大阪府吹田市(すいたし)→「ふきたし」。確かに地元の人でないと読めないものばかりです。そんななか最も驚いたのが、奈良県吉野町にある役行者ゆかりの寺「金峯山寺蔵王堂(きんぷせんじざおうどう)」→「きんみねやまの てらくらおうどう」。これはかなり難しいですね。この読み方をした人は、関西に来たばかりの方だったという事情はありますが、放送されてしまうと大変です。
今回の「柏原」のように同じ文字を使うのに、異なる読み方をするものは全国にたくさんあります。大阪市にある「日本橋」。これは「にっぽんばし」。東京は「にほんばし」です。兵庫県の県庁所在地・神戸は「こうべ」です。三重県伊賀市には同じ「神戸」でも「かんべ」と読む所があります。岐阜県神戸町は「ごうど」(全国に多数あり)。和歌山県貴志川町神戸は「こうど」。このほか、「かんど」「がんど」「かのと」「かど」「じんご」などの読み方もあります。また、神戸市垂水区は「たるみ」ですが、鹿児島県は同じ字を使い「たるみず」。
字は異なるものの、読み方が同じ場合もあります。たとえば大阪府和泉市も鹿児島県出水市も同じ「いずみ」。徳島県三好市、広島県三次市も「みよし」。愛知県には「みよし」と平仮名で書く市もあります。
放送原稿に出てくるのは、知っている地名ばかりではなく、知らないものもあります。しかし、地名を間違うこと、なかでも放送局が立地する地元の地名を間違うことは、信頼を失います。それこそ「致命」的です。このため、「国土行政区画総覧」というとても分厚い全国の地名の読み方が掲載されている本を参考にしています。
とはいえ、地名は市町村の合併などとともに消えたり、新たに生まれるものもあります。そして何より「ここはこの読み方だった」という思い込みなどもありますので、必ずその都度確認し、地域の皆さんからの信頼を失わないよう、これからも頑張ります。
(「ことばコトバ」第72回 ラジオ関西アナウンサー・林 真一郎)