北朝鮮による拉致被害者を取り上げたパネル展が10日、神戸市中央区の兵庫県警本部などで始まった。留学先のイギリス・ロンドンで消息不明となった神戸市長田区出身の拉致被害者、有本恵子さん(失踪当時23歳)の父・明弘さん(94)が訪れ、早期帰国に向けて拉致問題解決を訴えた。パネル展は16日まで。
拉致問題を風化させず、拉致被害者らの情報提供を広く呼び掛けるため、「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」(毎年12月10日~16日)に合わせて開催。恵子さんと神戸市出身の拉致被害者の田中実さん(失踪当時28歳)、また兵庫県内で拉致の可能性が排除できない特定失踪者(男女27人)の顔写真やプロフィールを紹介している。
恵子さんはロンドンでの留学を終えてヨーロッパを旅行中の1983(昭和58)年に消息を絶った。明弘さんは、進まぬ拉致問題解決に向けての交渉に、いら立ちを隠せない。「もっと(北朝鮮に)強い態度で接してほしい」と、日本政府に対するもどかしさを口にした。日本人拉致被害者に関しては、5人が帰国した2002年10月以降、新たな帰国者がおらず進展がない。
■「何でも話せた 聞いてくれた」安倍晋三元首相の死
「安倍さん(元首相)が突然(銃撃事件で)亡くなり、私の話をじっくり聞いてくれる政治家がいなくなった」。一昨年(2020年)2月に妻の嘉代子さん(享年94)が先立ち、同年6月には拉致被害者、横田めぐみさん(57・失踪当時13歳)の父、滋さん(享年87歳)が亡くなった。
そして今年7月の安倍元首相銃撃事件。明弘さんが最も信頼していた政治家だった。「必ず取り戻しますから」。この言葉を信じていただけにショックは大きい。
「残り少ない人生、何か良いことはないかな」。39年間、恵子さんに会いたいと願い続けている。「寂しいな。みんな行ってしまう」。明弘さんはラジオ関西の取材にこうつぶやいた。
もともと恵子さんのイギリス留学に反対していた明弘さん。今、恵子さんに会うことができたら、反対を押し切って日本を出たことを叱りたいと話す一方、「日本に帰りたくても、帰れない事情がきっとある。恵子は元気に生きているはず。結婚して子どもがいて、守るべき家族のために、声を上げられないつらさがあるに違いない。北朝鮮は親子3代にわたる独裁国家。一筋縄で済まないのだから」と語った。
兵庫県警本部別館7階 神戸優良・高齢運転者免許更新センターでは、期間中、パネルに加え、明弘さんが恵子さんへの思いを語るビデオメッセージも上映する(パネル展示は午前9時~午後5時45分)。
このほか明石運転免許更新センター2階(明石市荷山町)や兵庫県庁2号館1階(神戸市中央区下山手通5丁目)などでも開催。