「和牛オーナー制度」が行き詰まり、2011(平成23)年に経営破綻した安愚楽(あぐら)牧場(栃木県那須塩原市)について、違法な勧誘だったにもかかわらず適正な監査も怠ったとして、出資者64人が、元監査役(死亡)を相手取り、約1億1千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、神戸地裁は21日、原告の請求を棄却した。原告側は控訴する方針。
安愚楽牧場は、全国の投資家に繁殖用の牛を購入してもらい、生まれた子牛を買い取って育てたうえで販売し、オーナーは牛を売却した利益の一部を受け取る高い利回りの商品「和牛オーナー制度」を展開。
バブル崩壊後の1990年代から事業を拡大、和牛預託商法として、全国で最大約7万3千人から4200億円を越える資金を集めていたという。
安愚楽牧場は2011(平成23)年8月に経営破綻した。民間信用調査会社「東京商工リサーチ」によると、負債総額は4300億円以上にのぼった。「豊田商事事件(1985年に社会問題化)」や「大和都市管財グループ事件(2001年に発覚)」を大きく上回る消費者被害事件とされている。
また元社長ら経営陣は、契約した和牛の頭数が、保有する頭数を大きく上回るなどの過大な説明で出資者を募ったとして、特定商品預託法違反罪に問われ、有罪判決が確定した。
原告64人(東京、京都、大阪、兵庫、岡山 居住)の出資額は計約3億3千万円。中には1人で2億円以上投資した人もいたという。2014(平成26)年11月に提訴した。原告らは「オーナーの数に比べ、実際に存在した牛の数が極端に少ない。出資した金を元に自転車操業をしなければ、別のオーナーに高額の配当を捻出できず、当初から破綻が見えていた」などと指摘、「牧場側が赤字を隠して勧誘を続けたのを認識できたのに放置して、不適正な会計処理を行なっていた」と主張していた。
神戸地裁は21日の判決で、元監査役は当時の経営陣から業務状況やオーナー制度の実態について何も説明を受けておらず、実態の把握は極めて困難だったとした。また安愚楽牧場と元監査役との委任契約では、業務内容は会計監査に限定されており、不法行為は認められないとした。