サッカー・J1で、今シーズン唯一の開幕3連勝と、スタートダッシュに成功したヴィッセル神戸。けがや一時帰国で大黒柱のMFアンドレス・イニエスタ選手を欠くなかでも、FW大迫勇也選手、DF酒井高徳選手ら主軸となる元日本代表選手たちを中心に、チームは昨シーズンのJ1残留争いの鬱憤を晴らすようなパフォーマンスを見せている。そのチームのなかで今、いぶし銀の存在感を発揮している一人が、DF初瀬亮選手だ。
アカデミーから育ったガンバ大阪を経て、2019シーズンからヴィッセルでプレー。途中、約3か月間のアビスパ福岡への期限付き移籍も経験した初瀬選手は、2021年シーズンにヴィッセルでJ1でのキャリアハイとなる33試合出場を果たしたが、昨シーズンはその約半分となる17試合出場にとどまった。その悔しさを晴らすべく迎えた新シーズン、ここまでの3試合では本職の左サイドバックで先発フル出場し、勝利に貢献している。
本来は積極的なオーバーラップからの高精度のクロスを特長とする初瀬選手だが、今シーズン開幕戦のアビスパ福岡戦後、「自分が作りに入って前進させることと、後ろからのフィードを求められていたと思う」とコメントしたように、チームの戦い方もあり、今は主に後方からのビルドアップに参加。左のウインガーにMF汰木康也選手やFWジェアン・パトリッキ選手といった個人で打開できる選手がいることもあって、「前に行って仕事することも自分の持ち味だと思うが、チームとしてのやり方がいま、浸透してきている中で、後ろでサポートの中でも自分の良さは出せるかなと思っている」「後ろでサポートしながら、しっかりリスク管理していきたい」(第2節北海道コンサドーレ札幌戦の試合前コメントより)と、我慢強くバランスをとるプレーが目立つ。
「チームとして、どう勝っていくかを追求しながら、チームから求められていることをやっていきたい」という札幌戦前のコメントを実践し、福岡戦や札幌戦、第3節の古巣・ガンバ大阪との一戦でも、フォア・ザ・チームに徹していた初瀬選手。ガンバ戦では開始直後、FW大迫勇也選手の決定機をおぜん立てするなど、時に後方から的確な左足のキックで鋭い縦パスを繰り出し、相手DFの背後を狙うフィードで、ヴィッセルの攻撃にアクセントを加えた。また、守備でもリスクを恐れず相手の攻撃陣と対峙。果敢なボール奪取で相手のチャンスの芽をつむなど、力強いディフェンスでも頼もしさを感じさせた。
そして、ガンバ戦では、自身の武器であるキックがゴールにつながった。きれいな左足のフォームからアウトスイングで蹴り入れると、鋭くカーブがかかったボールはピンポイントでFW武藤嘉紀選手の頭に。この強烈なヘディングシュートによる得点がチームの勝利を決定づけた。「(得点は)よっち(武藤)のおかげだと思う。自分はセットプレーのキッカーとしてチームで1人しか蹴れないので、いいボールを配球することを意識しながらできた」(初瀬選手)。
試合後、「1週間、チームとして準備してきたものを出せたことが結果につながった。個人としてもアシストできたところが一番よかったなと思うし、DF陣として失点ゼロに抑えられたことが一番良かった。それを継続して次の試合に向けて準備していきたい」と語った初瀬選手。ガンバ戦では前後半の出足のよさが勝利につながったが、「立ち上がりはチームとしてすごく意識している部分。自分たちが先陣を切って圧力をかけていくというところはチームとしての意思統一があった。札幌戦も今日の試合(ガンバ戦)にしても、早い時間で点をとれたのはチームとして非常に大きい。相手に『あいつら来ているな』という怖さを与えることもスタートと同時にできたと思うので、それも継続してできれば」と述べ、チームの戦いにも手応えをつかんでいるようだ。
ちなみに、ガンバ戦からの試合では、全席での声出し応援が可能になった。「やっとこのスタジアムの雰囲気が帰ってきたという高まる気持ちもあった。本当にいい雰囲気を作ってくれたからこそ、今日の勝利があった。自分たちの力だけでは今日の結果は出ていないと思う」と、ホームの大声援が力になったと語る初瀬選手。サポーターには「あれだけ熱い声援を送ってくれたからこそ自分たちのパワーになった。サポーターのためにも自分たちは頑張っているので、一緒に頑張ってもらえればと思う」とメッセージを送っていた。
今後は、右DF飯野七聖選手の復調や、左右どちらもこなす「鉄人」酒井選手の起用法などもあり、チーム内でもサイドバックのポジション争いは活発になるだろう。それでも、彼らとは違った独自のストロングポイントを持ち、調子もどんどん上げている初瀬選手のプレーは、今シーズン、上位進出を目指すヴィッセルのカギを握る予感が漂う。「継続して勝ちながら修正できるように、チームとしてもっともっと成長できるように準備したい」と、チームとともに高みを目指す大阪・岸和田出身の25歳の活躍に今後も注目だ。(ラジオ関西『GOGO!ヴィッセル神戸』)