映画やドラマのワンシーンや、テレビ、ラジオ、イベントなどのマイクチェックの際に、「本日は晴天なり」と言っている様子を聞いたことがある人もいるのでは。どうしてそんな言い方をするのでしょうか? その意味や使い方について、普段はラジオを陰で支えている技術スタッフがラジオ番組のなかで解説しました。
「本日は晴天なり……本日は晴天なり……」
このフレーズは放送現場で実際に使われている放送無線用語です。放送の電波を出す前の点検や試験電波を出す際に、他の機器などに妨害を与えていないかを調べるために使われています。その名残で、スタジオでのマイクチェックの際にもこの言葉を使うことがあります。
実際の天気が、雨や、曇り、たとえ嵐の日でも「本日は晴天なり」と言います。冗談に聞こえるかもしれませんが……そうなんです。実は、これは総務省令の無線局運用規則にも明記されている言葉で、試験電波を出すときに、「ただいま試験中」「本日は晴天なり」などの言葉を繰り返すというような決まりが定められています。
どうして「本日は晴天なり」という言葉を使うことになったのでしょうか。これはもともと、アメリカの放送局の音声回線チェックで“It‘s fine today.”という言葉が使用されたのを、日本でも直訳し「本日は晴天なり」と言うようになったからです。
「本日は晴天なり」という言葉が初めて使われたのは、日本でのラジオ放送がはじまった1925年で、中央気象台の試験放送でした。その同じ年に東京放送局(JOAK、今のNHK)が仮放送の電波チェックに用いています。そのあと、日本全国で使われるようになりました。
ちなみに、英語で“It‘s fine today.” が選ばれたのは、短い文の中に母音や破裂音、摩擦音が入っていて、これはマイクで収音しにくい音として、マイクのサウンドチェックに最適な言葉といわれています。また、低音から高音までの幅広い周波数の音が含まれているのも、音声の確認に適しているそうです。
日本語の「本日は晴天なり」はサウンドチェックにはあまり適していません。日本で行われる、ライブイベントや収録のマイクチェックでは、「マイクチェック、マイクチェック、1・2・3(ワン・ツー・スリー)」というような言い方が多いです。マイクの音質や音量を確認したり、放送局では、音声回線が正常に機能しているかどうかをテストします。
マイクチェックをする際に気を付けるポイントは、しゃべり手は「本番となるべく同じ声量でチェックする」こと。せっかくリハーサルで音量を合わせたのに、本番ではテンションが上がって、声が大きくなってしまったということがあります。その結果、ハウリングや音割れの原因になることも。
「本日は晴天なり」はサウンドチェックにはあまり適していませんが、日本の放送業界で長年にわたって使われてきた正式な言い方であり、その由来は放送業界の人々にとっても大切なものとなっています。
※ラジオ関西『おしえて!サウンドエンジニア』2023年4月18日放送回より
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【放送音声】2023年4月18日放送回