関西でのインバウンド消費額 奈良・兵庫で大きな伸び 「関西経済白書2019」から読み解く兵庫の展望 | ラジトピ ラジオ関西トピックス

関西でのインバウンド消費額 奈良・兵庫で大きな伸び 「関西経済白書2019」から読み解く兵庫の展望

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『関西経済白書2019』
『関西経済白書2019』

 関西の経済界や大学アカデミズムによるシンクタンク・アジア太平洋研究所(大阪市北区、通称APIR)は10月31日、自らがまとめた『関西経済白書2019』の説明会を神戸市内で開き、白書から読み解く兵庫の展望について発表した。

『関西経済白書』は毎年APIRがまとめているもので、長く大阪でのみ発表会が開かれていたが、昨年から神戸でも開かれている。今年の白書は、「平成」から「令和」へとなった節目を踏まえ、「平成」の30年間の日本経済と関西経済を振り返り、福井や鳥取・徳島も含めた「広域関西」の発展に向けた分析を行っている。

 説明会で同研究所の稲田義久・研究統括兼数量経済分析センター長(甲南大学総合研究所所長・教授)は、①日本経済の名目GDPが対世界比で、1990年の13.5%から2018年の6.0%に半減、②世界の時価総額ランキングトップ10に入る日本企業が1989年の7社から2018年にはゼロへと転落した、などと「失われた」30年を振り返り、原因として「量産によりコストを減らし、売り上げを増やすことで利益を最大化する”薄利多売”のビジネスモデルから脱却できず、いまだ収益性を犠牲にしていることが競争力を低下させている」と指摘した。

 そして、それらを踏まえた関西経済の動向として、稲田氏は関西経済とインバウンドの関係に着目。携帯電話のローミングデータ(海外からの旅行者の携帯通信履歴)などから、大阪京都は昼夜を問わずインバウンドが滞在しているのに対し、神戸・奈良は昼間滞在が目立つ、「パッシング(宿泊しない)」が顕著だと分析。一方、関西を訪れた外国人の観光消費額でみた場合、2017年から2018年にかけての伸び率は、この奈良・兵庫が1位2位を占め、奈良は30.4%、兵庫は23.1%の伸びを記録した(いずれも大阪の13.6%、京都の1.8%を上回った)。

訪関西外国人の観光消費ベクトル
訪関西外国人の観光消費ベクトル

 稲田氏は、特に奈良はインバウンドの訪問率で2016年を境に兵庫を上回るなど伸長著しいとして、「奈良では、宿泊者に頼らない昼間滞在インバウンドに向けた新たなビジネスモデルの芽が出始めているのではないか」と述べ、兵庫経済界の奮起を促した。

 また、東アジア各地からのインバウンドの多くが東京・大阪・京都に集中している中で、「中国本土からの旅行客のおよそ2割が奈良に足を運ぶ」、「台湾からの旅行客のおよそ1割が兵庫県に訪れている」など、意外な事実も掘り起こした上で、「インバウンドの消費が府県のGRP(域内総生産)に与える影響力でみると、兵庫県は0.5%で関西の最下位だ(1位は京都の1.82、関西全体は1.08)」とデータを示し、インバウンドの消費をうまく地域経済にリンクさせる仕組みの必要性を訴えた。

2018年 国籍別訪問率
2018年 国籍別訪問率

 続いて登壇した松林洋一・主席研究員(神戸大学教授)は、「平成」30年間の貿易構造の変遷を、関西・関東・中部の地域の特徴からたどり、「米中貿易摩擦の影響がすべての地域に影を落とすとは考えにくい。最も影響を受けるのは、対北米が多い中部・関東ではなく、2000年代から一貫して中国向けの電子部品の輸出に頼ってきた関西経済」と懸念を示した。

 一方で、関西から中国への輸出の鈍化が、2018年春の米中貿易摩擦以前から起きていたことも指摘し、「日米貿易摩擦が解消するのに15年かかったことを思えば、今回の米中貿易摩擦は20年かかる案件かもしれない。目先に左右されず、じたばたせず、より長いスパンで世界情勢の動向を見据えることが肝心だ」と、参加した神戸・兵庫の経済人らに呼び掛けた。

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