1868年の開港により、海外から流入した洋風文化を取り入れてきた神戸。多くのファッション関連産業が集積し、1973年には「神戸ファッション都市宣言」が行われ、産学官一体となってファッション都市づくりが進められた。そんな神戸に、ファッションにまつわる仕事をしている人をはじめ多くの人々が訪れる場所がある。東灘区の『神戸ファッション美術館』だ。1997年、ファッションをテーマにした公立では日本初の美術館として開館。学芸員の中村圭美(たまみ)さんに話を聞いた。
同美術館ではファッションを“衣・食・住・遊”の視点からとらえた、多彩なアートを紹介する「特別展示」と、貴重な収蔵品を活用した「ドレスコレクション展示(※1)」を開催。3階にはライブラリー、4階には貸会議室、5階には多目的ホールを備えた複合文化施設だ。
ドレスコレクション展示では9000点を超える18~20世紀の西洋衣装や70以上の国・地域の民族衣装、約2000点の装飾品に1500点のファッション・プレートといった所蔵品の中からテーマに応じてセレクトしたものを展示。ドレス・民族衣装はレプリカではなく実際に着用されていたものだという。現在は“おしゃれなデイ・ドレス”と題し、オートクチュールからプレタポルテ、そしてよりカジュアルな大衆消費の時代へ軽やかに変化を遂げた1970年代までを中心に日中のおしゃれなドレスの数々を収蔵品の中から紹介している。
ライブラリーには国内外のファッション関連の蔵書約4万冊のほか、20世紀初頭からのファッション雑誌が並びバックナンバーを閲覧できる。例えばVogue誌は日本語版を含めた8か国分がそろいフランス版は1920年発行、アメリカ版は1892年発行のものなど貴重なバックナンバーや資料も所蔵している。ファッションやデザイン関係の専門誌はもちろんのこと、建築・食・スポーツなどジャンルは幅広く「研究者が利用することも多い」と中村さん。
18世紀頃から現代にいたるまでの西洋服飾史を主に、ファッションに関するテーマで展開する「服飾文化セミナー」も開催(※2)。団体向けのセミナーではあるものの、オンライン配信もしているため個人での聴講も可能だ。
特別展では世界中に広がる日本独自の「カワイイ文化」の原型をつくったマルチクリエーター・内藤ルネのデビュー70周年を記念した『Roots of Kawaii 内藤ルネ展』が6月25日(日)まで開催中。生涯にわたり活動を続けた内藤ルネの軌跡を仕事別に紹介しており、初出展作品を含む復刻原画や当時の雑誌や誌面、文化学園の学生と先生によるルネガール作品の再現衣装、昭和に大流行したファンシーグッズまで過去最大規模の作品数約570点を展示。ウキウキと心躍るような展覧会場になっている。
内藤ルネは1971年にパンダのキャラクター『ルネパンダ』を発表。パンダが日中国交正常化の証として上野へ到着したのは1972年のため、ルネパンダが登場したのはその1年前のことだった。内藤ルネはパンダをかわいいと感じて形にしたいと思い、ロンドンの動物園まで行き、スケッチした。しかし、本来は白いパンダのしっぽを黒くしてしまった。この影響で今でも日本では「パンダのしっぽは黒い」と勘違いしている人が多いのだそう。