5月14日は母の日。“クラシックの母”とも呼ばれるゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルはバロック時代を代表する作曲家で、今なお世界中で愛されている。代表曲には、クリスマスの定番「ハレルヤ・コーラス」(『メサイア』)、オペラ『セルセ』の「オンブラ・マイ・フ」、表彰式でもおなじみの「見よ 勇者は帰る」(『マカベウスのユダ』)などが挙げられる。
ヘンデルは1685年、現在のドイツのハレで誕生。幼いころから音楽の道を志し、イタリアやフランスへ渡ったのち、イギリス・ロンドンを拠点にオペラやオラトリオ(聖書の物語などを題材とし、独唱、合唱、管弦楽で構成される楽曲)の作曲家として活躍することとなる。
ロンドンは当時から大都会で、オラトリオの観客には王族や貴族だけでなく一般市民もいた。そこで、ヘンデルは大衆を魅了させる音楽を次々と発表していく。
一方、ヘンデルと同い年で“クラシックの父”と謳われるバッハは、神を崇める荘厳な宗教音楽を数多く作曲した。バッハが“神のための曲”を作ったのに対し、ヘンデルが“人間のための曲”を作ったといわれるのは、このようないきさつがあったからだ。
人気音楽家として王室や上流階級の人々との交流を深めていったヘンデルは、王家の行楽行事にも携わっていたようで、代表作の一つである組曲『王宮の花火の音楽』を作っている。さらに、古代の物語を題材にし、「オンブラ・マイ・フ」で始まるオペラ『セルセ』(※1)、イエス・キリストの誕生を音楽化した『メサイア』といったオラトリオも有名だ。なかでも、神をたたえる合唱「ハレルヤ・コーラス」(『メサイア』)は、今やクリスマスシーズンになると世界中で演奏される楽曲となっている。
日本人が最も親しみを持つヘンデルの音楽といえば、表彰式で必ずといっていいほど耳にする「見よ、勇者は帰る」だろう。この曲はオラトリオ『マカベウスのユダ』の合唱曲のひとつで、古代ユダヤの英雄ユダ(ユダス)・マカベウスが戦いに勝利し、故郷に凱旋(がいせん)して民衆に迎えられるシーンで歌われる。旋律やメロディーが勝利をイメージさせることから、日本では“優勝賛歌”とも呼ばれている。
天性の才能だけでなくサービス精神も併せ持ち、王族から一般市民に至るまで幅広い人々を高揚・感動させる音楽を次々と世に送り出したヘンデル。その音楽は国を越え、時代を越えて、現代の人々をも魅了し続けている。
※1 同名の作品は他の作曲者も作っており、ヘンデルの作品にはその原型があったとする説もあります。
※記事に登場する作品名には、複数パターンが存在するものもあります。
■ラジオ関西『田辺眞人のまっこと!ラジオ』2023年4月14日放送回、「田辺眞人のラジオレクチャー」より