今から22年前の平成13年(2001年)6月8日、この時間に不審者の侵入を防ぐことができずに、8人の児童の尊いいのちが奪われ、13人の児童と、2人の教員が傷つけられるという大変悲しくつらい事件が起こりました。
当時は、「学校は安全なところである」という根拠のない思い込みにより、それ以前に学校が対象となる事件があったにもかかわらず、不審者侵入に対する想定及び対策ができていませんでした。学校として、迅速な対応や組織的な対応が取れなかったため、私を含め教職員は、自分の学校でありながら何が起こっているのか十分に理解することができず、その場その場の対応にならざるを得ませんでした。本来、子どもたちを守らなければならない教職員が子どもたちを守ることが出来ず、保護者をはじめ多くの方々に悲しく、つらい思いをさせてしまうことになりました。
現在では、様々な方々の思いを受けて作られた、この安全に配慮された校舎で子どもたちは学ぶことができています。8家族の皆様、保護者、地域の方々をはじめ、過去から現在に至るまで本校に関わってくださる多くの方々が、それぞれの立場で本校の教育活動を見守り、支えていただいていることに対して、感謝の念に堪えません。本当にありがとうございます。
さて、児童は今年も校長室の8人の写真に会いに来てくれます。今年は、6年生が1年生を連れて一緒に写真を見る姿をよく見ます。6年生がこれまで学んできたことを自分なりの言葉で1年生に語りかけてくれています。校長室にやってくる低学年の児童は、私を見つけると、自分たちが事件について聞いたことや知っていることを私に話してくれます。私に伝えることで、自分なりに事件のことを深く知ろうとしているように感じています。祈りと誓いの塔の周りの花壇の植え替えの際も、熱心に教員の話に聞き入り、それぞれが亡くなった8人の児童に思いを寄せながらこのマリーゴールドの花を植えてくれました。
教職員は、毎年入れ替わる中で、事件当時は、教員ではなく児童や学生であった者が増え、若い世代へと変化してきています。しかしながら、事件当時の教職員の思いや願いに寄り添おうとし、進んで全国の学校を取り巻く安全の課題について情報収集し、本校としてやるべきこと、発信すべきことを熱心に語り合ってくれています。また、児童と教職員の命を守るために、個人ではなく組織として対応することを念頭に置いた不審者対応訓練に年間5回以上取り組むとともに、安全科の授業の充実や安全教育のカリキュラムの再構築に力を注いでくれています。
しかしながら、学校や子どもたちが襲われる事件が後を絶ちません。それぞれの学校においても、そして自治体や関係機関においても安全対策を講じ、児童生徒を守る取り組みを進めているはずです。それでも、襲う側は、そのスキをついて学校や子どもを狙っています。学校の安全に絶対はありません。事前の対策はもちろんのこと、何か事件事故が起きた際には、他人事ではなく自分事として捉え、対策を練り、改善に努める姿勢が大切です。幸いにも、新型コロナウイルス感染症の対応が少しずつ落ち着く中で、本校への学校安全の対策についての問い合わせが再び増えてきています。本校の話を聞いていただき、一緒に児童生徒の命を守るための対策について共に考えてくださる学校、自治体も増えてきています。
本校だけでは微力ではありますが、共に学校安全について関心を持ち、取り組みを進める学校の存在が本校にとって心強く思えると同時に、このように学校、自治体、関係機関がつながり、地道な取り組みを継続していくことが学校の安全管理の徹底を促すことにつながると信じています。また、国の学校安全推進のモデルとされているセーフティプロモーションスクール認証校としての責任を果たすことも本校の使命であります。そして、これらを含めた学校教育の力によって、人を傷つける側の人間ではなく、自他のいのちを大切にし、人を守る側、支える側の人間を育てることを目指さなければなりません。
さて、今年度は、新型コロナウイルス感染症が一定の落ち着きを見せる中で、学校も本来の姿に戻ってきています。本校としては、地道な学校安全の取り組みやこの集いの意義を、報道の力も借りて国内外の方々に知っていただき、それぞれの場所で子どもたちを守る取り組みがさらに前進するきっかけとなることを強く望みます。
最後になります。事件で亡くなられた8人のみなさん、みなさんが大好きだったこの附属池田小学校は、引き続き、日本中の学校とさらには世界中の学校と手をたずさえ、学校が安全で安心して学べる場所であるようにこれからも努力を続けます。
この場所にいる大人は、決して事件を風化させることなく、目の前にある「祈りと誓いの塔」が建てられたその深い思いを受け継いでいけるよう努力を続けていきます。
令和5年6月8日
大阪教育大学附属池田小学校長 眞田 巧