イギリスの歴史や文化のうち、人間に欠かすことのできない「食」を、ボタニカル・アートを通して紹介する「おいしいボタニカル・アート」展が、西宮市大谷記念美術館で開かれている。2023年7月23日(日)まで。
みずみずしくて立体的。思わず手を伸ばしたくなるリンゴやブドウ・・・会場に並ぶボタニカル・アートだ。
ボタニカル・アートは、有用な薬草を見分けるために、植物を調べ描写したことが起源と言われ、古代ギリシャでは薬草をまとめた本草書「薬物誌」が編集された。その後、植物画は、その精密さと美しさから、医学的な実用書から美術的な鑑賞用としてのボタニカル・アートに発展していった。本展では、世界最大級のボタニカル・アートのコレクションを所蔵する英国キュー王立植物園の協力のもと、野菜や果物、ハーブやスパイスなど様々な食材を植物にまつわる物語とともに紹介する。
会場には、細密に描かれたボタニカル・アート作品が並ぶ。葉や茎、根、そして果実、その断面、中にはその植物の成長過程が描かれているものもあり、図鑑を見ているようだ。当時は印刷技術が発展しておらず、版画で輪郭線を刷り、「手」で色をつけた(手彩色)。リンゴやブドウのほか、コショウやシナモン、ヘーゼルナッツなど、加工される前の姿を描いた作品もある。
また、イギリスの日々の暮らしを彩る飲み物も取り上げ、食器やテーブルセッティングも展示する。今やイギリスでは「当たり前」となった「茶」の文化は、17世紀の前半に東洋からもたらされた。当時は高級品で、食器には東洋的な柄が描かれたものもあった。東洋への憧れがあったことがうかがえる。茶葉を保管する「ティーキャディー」には鍵穴も付いている。
砂糖も当時は高級品で、「(砂糖をつかむための)シュガートングの開きは小さくなっている。高級品だったので、少しずつしか給仕できないようにしていたのでは」と同美術館の下村朝香学芸員は話す。再現された18世紀末から19世紀初頭のテーブルセッティングには、「目立たないように置いてみた」という。