兵庫陶芸美術館(兵庫県丹波篠山市)では8月27日(日)まで、特別展「デミタスカップの愉しみ」が開かれている。分かりやすい解説で好評のシリーズ「リモート・ミュージアム・トーク」の今回は、同館の岡田享子学芸員が担当。3回にわたって、同展の内容について教えてもらう。第1回は「エレガントなデザイン」。
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兵庫陶芸美術館では、8月27日(日)まで、特別展「デミタスカップの愉しみ」を開催しています。本展は、デミタスカップ収集家、村上和美氏の2000点を超える所蔵品の中から、マイセン、ウェッジウッド、ミントン、セーヴルなど、欧州の名窯が19~20世紀に生み出した作品を中心に、珠玉の約380点を紹介します。
デミタスは、少量のコーヒーを飲む時に使う小さなカップです。ヨーロッパ各地にコーヒーを飲む文化が広まると、世界各国で作られました。
中でも、今回紹介するのは、ヨーロッパ美術のエッセンスが随所にみられる、エレガントなデザインで彩られた数々の作品です。
最初は「金彩花鳥文角形(きんさいかちょうもんかくがた)カップ&ソーサー」です。カップとソーサーの口縁部には、金を盛り上げて竹が表されています。胴部には、青い羽の鳥が四角い窓枠に止まり、その足元には色とりどりの紅葉が描かれています。東洋では古くから、竹と雀を取り合わせた絵画がよく描かれてきました。おなかが膨らんだこの鳥も、ヨーロッパ人から見た雀のイメージかもしれません。
次は、デザイナーのクリストファー・ドレッサーによる作品です。本作は、目の覚めるような水色と青色の色彩が特徴的な作品です。イスラムや東洋の文様が基となった花や幾何学文は、有線七宝にヒントを得た、金彩による丁寧な縁取りが精緻を極めています。
これらの作品は、西洋文化から誕生したデミタスに、日本をはじめとした東洋文化が融合して生み出された、「ジャポニスム(日本趣味)」期の特徴が表わされた優品です。
2枚の画像で見ていただきたいのは、「金彩花卉文(きんさいかきもん)ハイハンドルカップ&ソーサー」です。ハンドル(取っ手)が、流れるような曲線で構成され、その一部はカップのデザインと一体化しています。カップに施された花の文様は、ハンドルを後方にセッティングした時に、正面に見えるよう工夫が凝らされ、ソーサーに施された同様の文様と調和するよう、左右対称に配置されています。ヨーロッパを中心に流行したアール・ヌーヴォーのドイツでの呼称・ユーゲントシュティールに属する華麗なデミタスです。
銀製のものも。カップは、円と直線を組み合わせた、文様のないシンプルな白磁で、銀製のカップフォルダーに収まっています。円形の中に幾何学的なデザインが刻印されたフォルダーは、直線と曲線を組み合わせたハンドルと一体化しています。五角形のソーサーには、円形に切り抜き様式化された蘂(しべ)があらわされ、アール・ヌーヴォー期の後に流行したアール・デコ期の特徴を捉えた、モダンでスタイリッシュな印象を与えています。