「ヘルプマーク」をご存じだろうか。義足の使用、重篤な内部疾患など、外見からはわかりにくい状況を抱え、周りの援助や配慮を必要としている人が、助けを求めていることを知らせるためのマークのことだ。2012年に東京都が作成した。10年余り経った今、目にする機会が増え、全国に広まりつつある。しかし、決して浸透しているとは言い切れない現状が浮かび上がっている。
そこでこのほど、ラジオ番組で「ヘルプマークの今とこれから」を考察。当事者や支援者や研究者の声とともに全3回シリーズで届ける。前編は「どれくらいの人が知っている? ヘルプマークの今」。
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赤い長方形に白色で十字とハートマークが描かれたヘルプマーク。義足や人工関節を使用している人、心臓の重い病気といった内部障害や難病を患っている人、または妊娠初期の妊婦、発達障害がある人などが身に着けていることが多い。駅や街なかで見掛けたことがある人もいるだろう。
【ヘルプマークの認知度】
人口150万人の都市部である神戸市内と、人口3万8000人の丹波篠山市など郊外で、約50人にヘルプマークについて聞いた。
「知らない」「ちょっとわからない」「見たことない。助けてくれってこと?」「AEDかな?」など、未知のものと捉える声のほか、「友達がつけているから知っている」と答えた人もいた。“なんとなく”を含め「知っている」のは2割、意味や内容まで理解しているのは1割程度だった。
また、都市部など人の多いエリアほど認知度が高く、若い人や女性の方が知っている傾向がみられた。番組では「地域にもよるが、若い世代は学校などで学ぶ機会があり、女性はマタニティマークの存在が影響しているのかもしれない」と分析した。立場によって認知度には違いがあることが見えた。
これらはヘルプマークを「持たない」人の声。では、「持つ」人はどうなのか。
【ヘルプマークを持つ人の意識】
◆西澤さんの場合
まず話を聞いたのは、大学生の時に心臓病を突然発症し、人工心臓をつけて数年間過ごした後に心臓移植を受けた西澤さん。現在は介助なしで生活できるが、人工心臓をつけていた頃は危険と隣り合わせの生活で、常に親が介助していたという。
「人工心臓をつけていた当時は『何で自分が?』という感じ。つけている以外は何のハンディもないし、普通といっしょやん、と。マークをつけることで、何かあったときに助けてもらいやすくなる。気をつけようと思ってもらえるのでは」と話す。西澤さんはかばんにヘルプマークを下げているが、あからさまに見えないよう内側につけている。「(ヘルプマークを)持っている人に気づいたら、ちょっと気になったという感じでいいので関心を持ってもらえたら」と話す西澤さん。「以前は、ハンディを持つ自分を特別視していた。就労継続支援B型事務所(※)で働くことで、今はいろんな人と出会ってその思いは薄れていっている」という。
※障害・難病のために一般企業での就労が難しい人が、自立した生活を送れるよう、雇用契約を結ばずして生産活動や就労訓練を提供する施設。
◆ごまもふさんの場合
ごまもふさん(ペンネーム)は、中学生の時に母親から発達障害があることを告げられた女性。小学校から中学校までは普通学級で過ごしたが、「なんかみんなと違う。いじめられるし」。彼女は自閉症スペクトラム障害、注意欠陥・多動性障害(AD/HDを含む)で、社会的不適合を起こすとうつ状態になるリスクを抱えている。ヘルプマークは「人の多い電車内や駅などで体調が悪くなるのが不安だったので、御守りとして」数年前から持つようになった。
一方でこんな経験も。「姑は私の障害は気にしないと言ってくれるが、ヘルプマークを地域の人に見られると、のちのち厄介な噂が広まるのではと心配している」。
そして「郊外に行くと堂々としていられないのがつらい。障害があることを隠さないといけない習慣があるというか、地方に行けば行くほど理解されない障害なので」と心の内を吐露。ヘルプマークについても「“御守り”から、変な噂の種に変わってしまうというリスクというか……不思議ですよね。ヘルプマークを持つのが恥ずかしいことではなく、障害者であることを認めてもらうためにも、むしろ持つことが当たり前の世の中になってほしい」と話す。
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続く中編では、「ヘルプマークを持つ人を支援する人、ヘルプマークを使わない人」テーマに届ける。